困難に迎え
相当に大きな意義が出て来たと思った。シンのシンツールも、当の意義があった訳だ。そして、彼がこうして生き残って来た何か隠れた才能が、ここまで行軍を始めるきっかけになりつつあると言う事だ。
休憩に入った。ランが言う。
「シン、お前はやっぱり大した奴だったんだな」
「よせやい、ただ、俺は見た事が画像として頭に残っちまうんだよ、難儀なものさ」
「嫌な事もかい?人の喋った事とか?」
「いや、自分が意識してそうしようと思った時だけの事さ。もし、そんな才能があるのなら、きっと俺は嫌な奴になっていただろうと思うし、俺も人を恐らく信用もしなかったと思う。だって、人間って偉そうに言うけどさ、自分の言動なんて気分で変わる事もあるし、考えが一貫していると言う自信も無いだろう?矛盾している生き物だと俺は教わっても来たし、そう言う部分があると思っている」
「・・成程・・そんな事を全部覚えていたら、人と会話も出来なくなっちまうよな」
ランは、しみじみとした顔でそう言った。でも、次第に輪郭が露わになってくる現組織に対して、人間の非力さも痛感せざるを得なかった。自分達が改良して来た生物兵器に今度は自分達が脅かされている現実は、正直情けないなと思っていたからだ。
休憩が終わる。何度かこう言うミーティングもして来た訳だ。そして、全てを理解せよ、自分達の思想通りに行動せよと、エライ班長達は一言も言っていないのだ。そして、自発的にメンバーの考えを聞き、真摯に対処しているのだ。彼らを信じて、もう前に進むしか無いとシン達も思っているからこそ、色んな意見が出るのであった。
話は深夜まで続いた。そして、まずやらねばならない作業班の壁修復を手伝う事となったメンバー達だった。改めて、作業班のてきぱきとした行動を見て、彼らも与えられた職務として十分な才能を持ち、優秀な事を知る。どこにでも人材は居るものだし、それこそ、そのエキスパートとして育てられた彼らの教育方針も、或る意味、上の考えに同調出来る部分もあると思った。適材適所、得意な分野を伸ばしてやる。それが、この組織内でのルールである以上、組織上部とても、そこに君臨し、旧世界にあったような世界を支配する、権力を持つ、そう言った類の考えでは無い事も分かったのである。要するに、今の状態をこれ以上悪くならないように維持する派と、これでは将来がやはり自滅だから生き延びる方策を示さねばならない派の考えであろうと思う。そして、こう言う考えの方向性は、人間社会の矛盾でもあると思える。もっと単純に動物社会のように自給自足で強者が弱者を食い、食性ピラミッドの中で、生きる社会こそ、理想形なのでは無いかと思える。もっとシンプルなのだ、動物社会とは。人間も原始社会のように戻れれば、こんな馬鹿げた地球環境をさえ破壊してしまう行動は、起きなかったに違い無いのだ。