第四章その三 勢力争い
リンはモニターに記録されていくデータを熱心に見ながら、時々、海上の視界の中で、何か異常が無いかを監視している。上空には20頭前後のオオコウモリが護衛と監視の役目で、3時間毎に交代で飛び回っている。異変があれば、リンはその超音波をある程度聞き分ける事が出来る唯一の男だ。すぐ回避行動をとれる体制を敷いている。一方ケンも野性的な勘が滅法強く、また繊維を利用し、簡素な網や、釣糸をあっと言う間に用意し捕獲による生体観察を行っているのである。ショウは2人を非常に心強く思っていた。また彼がランと共通しているように、非常に情報量も豊富で知識も深い。今はデータを積み重ねる事に集中しているようだ。何よりも彼が初めて披露する検索プログラムは、画像を入力した段階で、その生物の名前や特徴などが明確に一瞬で出て来る事だ。これは、この2人には無い事だ。そのリンとケンも新メンバーであるショウを、時々おちょくりはするもものの、元々行動を共にしていた仲間であるし、違った一面を見て喜んでいた。彼ら第14班は本当に個性と才能豊かなメンバー揃いなのだ。突出していると言い換えても良い。その個々のポテンシャルは、相当のレベルまで上がっているのだ。それには、やはり野外活動によって、眠っていた遺伝子そのものの人類の可能性であるのかも知れない。そんな事をコウタ班長はこの時、ランに話しているのだった。そのランも、それは大きく自分の中でも何かをせよと常に求められている自分がまた居るんだよと、コウタ班長にそんな感覚を吐露していた。
こっちはリン・・
「ちょっとストップ!」
「え・・あ・・おう」
ストップと言っても海上だ。ボートは車のように急停止出来る訳でも無い。ただ、これは、限りは勿論あるし衛星など無い簡素なGPS機能だが、このボートにはそんな機能があったのである。少しストップと言った場所にボートは戻り、その周囲をぐるぐると回って行く。
「ショウ・・知っていたんだろ?ケンシンさんがこの機能を随分前に開発していた事を」
「は・・でもさ、まさかそれを知り、完璧にケン・・お前が咄嗟に利用出来るとは思っても見なかったよ」
ショウが苦笑いした。
「ふふ・・実はこっそりケンシンさんに耳打ちされていた。こう言う機能があれば、野外活動において、かなり有利になるとな。確かに、ボートでこれなんだから、小型化すればある程度の範囲・・つまり*無線電話と同じ位の範囲で使えそうだな」
*この時代の無線電話とは、トランシーバーの機能より遥かに高度なものだが、周知のように、空には受信・発信出来る衛星は飛んでは居ない。彼らはバッテリーによる狭い範囲だけに限る、送受信機によって、位置の把握をしていると言う事だ。そして、それは新たなマップとなってショウの用意したPCに記録されていく。彼らからすれば、近古来の高度科学は殆どその恩恵を受けては居ない。自分達の身近にあるもので、そう言う知識を得て、考えて生み出すと言う才能を磨いてきたメンバー達なのだ。その中で、50000人のドーム人員に対して、50人のやはり特選メンバーが居る。それがシン達も含め、現在の主となって動いている者達なのである。




