第四章そのニ 繫がる世界
「だが、俺にはその考えは相容れないと思った。確かに饒舌で人を手先のように動かして使役する事は可能だろうし、強権で常に恐怖の縛りで押さえつける事も可能だ。だが、そんな者は部下、配下に信用を得る事は出来ない。それならいっそ最初から孤高を貫けば良いのだが、その王と名乗る者は、先に言った通り、所詮小さな集団を率いる事を目指すだけの個であり、それだけの器でしか無い訳だからね」
「むう・・その論理で行くと、人間のその突発遺伝子を持つ類まれなる王と言うのは、感情を持たない孤高の主と言う事になるよな」
「ああ・・俺はもともと分析が主の人間。だからこそそう言う分析をした」
「そうか・・存在は確かにあるし、痕跡もある。そして伝え聞いた事を、もしやったのなら、黒服排除も何となく頷けるよな」
この夜は、ここで話が終わった。コウタ班長はこれから人類復活の道導たる指標と、こう言う突発性遺伝子は、今やっている遺伝子MIXの伏兵として出現する可能性を示唆していた。和良司令官に例えたのは、まさしく分かりやすい例として。コウタ班長の本音は、そう言う優性遺伝子とか人工授精とか、もはや種としての生命力を失ってしまった人間に対する警鐘の事も言いたかったのかも知れない。しかし、やらねばならない事も分かった上でだ。ストレートに言わなくても伝わる事はある。まさしくシン達には全部言わなくても何が言いたいのかは十分分かっていたのだった。
夜が明けて、朝食後すぐ出発した。何事もなく過ぎ、昼夜を問わず、オオコウモリの馴致集団は上空を飛んでいた。空にはオオコウモリ以外の鳥類は皆無だった。それが他国に生存鳥類が居ない証左の一つともなっている。
コウタ班長とランは、真近で見る光景に声を上げていた。
「うおおおっ!これは・・すげえよっ!」
そこには無数のカニ、エビ、貝類魚類が、所狭しと動いていたからだ。全く別世界の光景が、そこには広がっていた。やや緑色を帯びる海は本当に湖のようで、殆ど無風の状態では波も立たない。この時期は乾季にあたる、雨も殆ど降らないから、更にこの周辺の砂はやや灰色を帯びて、細かい粒子で海の色と対比して綺麗だった。周辺に樹木こそ無いが、海藻は今まで普通にあったんだよと言いたげに、その辺に打ち上げられ、海の中にも茂っていた。
「まさにパラレルワールド・・画像でも拝見したが、臨場感がまるで違う・・」
コウタ班長が、少し声を震わせて感動の様子だった。




