第四章その一 矛盾の渦編
「ちょっと前にコウタ班長と俺が話をした。シン班に加入しているのなら、奴らがじっとしている筈が無い。どこかでごそごそとやっているだろうから、AI端末の一部からこう言う情報が出て来た。持って行けとな。だが、すぐには知らせるな、シン達は自分で体感しながら実証を重ねるタイプだ。俺もショウも一緒にプログラミングでもやった事があるし、メイ・リー博士と同じカリキュラムもやって来ている。流石に兄妹だと思うが、そこは自分の判断で渡して欲しいとな・・で、今が一番その時だと思うから一緒に見よう。あ・・俺は見ていない。一緒に見ようと思っていたからさ」
「何だよ、ショウ。それはお前が見てから判断すべきだったんじゃ無いのか?」
ケンが聞くと、何故かそのタイミングで『戒』がワンと吠えた。連鎖して『愁、伴、亮、銀、楊、柳』も一斉にワワンと吠えるのだった。
が、それはケンの言葉に反応した訳では無い。何かが海の中で動いたからだ。
「ん?何?」
少し遠くて、犬達には反応したかも知れないが少し大きな生物?が動いたのか?だが、シン達には分からなかった。少し間が開いたが、ショウが、
「この瀬戸内海の生物については、まだ調査が始まる所だ。もう少し海岸から離れて落ちつこう。電動車も移動して、飯でも食いながら話そうや。電動車に大き目のスクリーンも積んである。一列になって車の方に向かい、それを見ないか」
「分かった。大変な準備をして来たな、ショウ・・ふふふ」
こうして、彼らはまだまだ未知なる海だ。予想外の生物も居るかも知れない、海岸から離れるのは賢明な判断だった。シンも犬達が、何の異変も感じ無いのに吠える筈も無いと思いながらも、ケンが犬達に餌を与えると、嬉しそうに尾を振りながら食べ始めた。危機回避能力は人間の数十倍以上も優れているだろう彼らが周囲に居れば、そこはシン達も安心だったし、上空にはオオコウモリが昼夜を問わず、馴致以外の群れが例え現れても、シン達の傍には近寄らせる事は無かった。だが、馴致以外のオオコウモリがこの生物豊富な瀬戸内海に飛来している情報は、ここまで全く無かったのだ。これも不思議な事だ。馴致オオコウモリがこの上空を飛べると言う事は、何ら上空に異変も無いと言う事なのに・・
そんな少しの疑問も打ち消すように、コウタ班長から渡されたそのデータは、薄暗くなって来たこの夜の停泊地で、少し衝撃的なものだった。コウタ班長は、先に自分の見解を述べている。
「これは実証・検証していない段階のものだ。だが、自分達の近世の先祖達が何をしようとしていたかの一端が分かったので、実践をしているシン班長に伝えたい。この情報は今の所、俺とメイ・リー博士しか知らない。だが、ショウ君が一番適任だと思うので託す」




