第四章 探索開始
ケンが笑った。普段は寡黙で余り喋らないケンだが、
「いや、ずっと前にシンが言っていただろ?生体武器オオコウモリや遺伝子操作を行う以前の動物達の標本が産業資料館にかなりの数がある。殆ど日本に生息する動物を集めたかのように」
「ああ・・相当な種類が収蔵リストにあるよな、絶滅種も含めて」
「俺達は、人口を増やそうとやっている最中だが、あいつは逆の事を言った。本来環境に応じて適者適存の法則で進化を遂げて来た独自の動物は、自然の環境に戻してやるべきなんだ。だからオオコウモリだって、本来は日本に生息する種じゃない。本来の種の遺伝子に戻してやる操作を行い、本来の生態系を取り戻したいと・・真逆の事を言っていたんだよ、俺達の今の取り組みとはな」
「そう言えば・・聞き流していたように思うが、シンはそう言ったな・・」
「俺は、生体カラスの事を出現したように聞いたものの、それは誰も現実を知らない話だし、聞いたままでもう忘れてしまっていた。実際T国には不明生物は確かに居るものの、カラス等は一羽も確認されていない。生体オオコウモリが捕食したにしても、カラスも非常に賢い鳥だ。まして生体武器に改良されていた個体ともなると、オオコウモリのように殆ど木にぶら下がる以外は、飛んでいるが、カラスは地面も歩く。逃れる術は知っている筈なんだ。絶滅させられるかなあとか思ってさ」
「ケン、お前も相当記憶力がすげえな、シンと殆ど変わらないぜ?今頃気付いたけどさ」
ランが眼を丸くした。
「いや・・俺の場合、何度も何度も反復するんだ。疑問を追求しようとする姿勢は、シンと通じるものがあるが、一つの事にかなり集中している部分はある」
「それで・・?話が戻るが、和良司令官がどんなに天才であろうとも、もはや科学者、発明家であったとしても、光ケーブルの開発だってチームを組んでやらなきゃならない。そのチームとは第一世代のメンバー達に違いない」
「ああ・そこのとっつきからか・・確かに、そうなるよな」
「だとしたら、AIがもし一部でもコンタクト出来るのなら、恐らくそのカードは和良司令官が持っている筈だ。塔にしても複数のカードは、残っていたし、ランの検索でも50枚程あったと言う話だよな」
「後からだけどな、そんな情報が出たのは。その時は10数枚だった」
「だとすれば、各第1世代50名の担当が決まっていて、それぞれに日本全国から選ばれた最優秀な科学者・医学者・博士達だった。それが個々に担当部署のカードを持っていたのでは無いか?」
「有り得る・・それはその通りかも知れない」
「ならば・・和良司令官の担当は光ケーブルの開発と、恐らく遺伝子工学の第1世代の者数人と自分達のネットワークを結んでいたのでは無いかなと」
「お前・・ケン。恐ろしい発想をしたな、だが、それは十分頷ける。つまり、その中で自分の再生手術も行ったのでは無いかと言うんだな?それは、自分では勿論出来ないからな」
「うん、そうなるだろう、そこはな。だから、生体武器の開発は、この和良司令官が大きく関与していたと思う。いや、そうでなきゃ、オオコウモリを実際放したり、一部の動物をドーム外に出したりは出来ないと思う」
「第一ドームが、中央の管理システムを除いて、最重要施設だったし、超優秀な者達ばかりを選出した研究所だった事も聞いた。又、あらゆるデータを保管し、コントロールを担う中央とは別に、産業資料館も相当大きな施設の一つだったとは聞いているし、実際それは頷けるよな」
ランは、うんうんと頷くのである。




