第三章その三 海を渡る
「ふふ・・色んな話を聞けて、楽しいよ、カジ君」
「あはは・・この様々な状況の中で又逼迫する案件も多いだろうけど、シン班長には余裕が感じられるよね」
「それは傍目だけの事だ。全てが未知の世界に遭遇している。分からない事ばかりだよ」
「俺なんかの思い付きのアイデアなんて参考になるのかどうか分からないけど、オオコウモリって馴致も相当進んでいるようだけど?」
「ああ・・なかなか難しい事もあるが、リンが積極的に関わっている。俺はむしろ、カジ君にそっちを担当して貰ったらどうかと思っていた」
「もし!もしそれが可能なら俺は喜んで」
カジは眼を輝かせた。むしろ、犬の馴致を提案したように様々な思考があるようだ。
「うん、今すぐは無理だろうが、実は佐賀の海にいる得体の知れない生物は知っているよな」
「ああ・・何度も画像を見せて貰った。時間の許す限り最近ではかなりのデジタル画像が絶え間なく送られて来るから良く見ている」
「君が、そっちに大きく関心があるんだろうと思ってね、実は今日ここへ来て貰ったんだ」
カジは眼を輝かせた。
「え?俺に何か役立てる事があるのかい?」
「君はユニークな発明を沢山しているそうだね。でも、今までの部署では生かし切れていないばかりか、そのアイデアを却下されてきている」
「あはは・・それは聞いた話、シン班長が悉く企画を却下されて来た事とは全くレベルも違うと思うし、無価値だからだろう。それに俺のアイデは、生体班としての目的も違うからね」
「少し披露してくれないか?その佐賀の生体の組織を、オオコウモリを利用し、食いちぎると言う今の所作戦なんだが・・」
「オオコウモリに食いちぎらせる?あはは・・それは可能かも知れないけど、駄目だろう?」
「え・・駄目?何故?」
ケンとシンの眼が点になった。
「オオコウモリが加えた段階で唾液がつく。その唾液には分解酵素や、咥内雑菌が無数に含まれている。そうなると、純粋な細胞組織を採取するなんて出来ないよ」
「あ・・そうか・・細胞を採取する事だけ考えていた・・」
「シン班長はマルチな才能を持っていると誰もが思っているし、そう俺も話の断片からでも分かるけど、そのミッションに限っては、大雑把だなあ・・つまり、目的に関しては達成しても、分析と言う作業を丸っきり飛ばしている」
「そうか・・そこを抜かっていたなあ・・で?カジ君には秘策があるのかい?」
にやっとカジは笑った。これもシンの誘導話術なのだが、表情に出したカジと、心の中でにやりとするシンでは、やはり役者が違っている。




