第三章その三 海を渡る
「いやいや・・塔の話だよ。俺達はずっと謎だった。今は発電施設として稼働しているが、本来の目的が何だったのかと言う事だ」
「シン・・お前は同時進行で色んな事を一緒にやっている。お前程そう言う風に考えられる奴も居ないさ。その点でいけば、実に幅が無く、能力はあるが一つの事しか出来ないエライリーダーやシリマツ官吏とは比すべきも無い」
「おっと・・だから批判するなって。彼らの存在が俺達を変えた事は事実だし、俺はそんな批評をするなって常に言っている。それが、組織をスムーズにするルールなんだよ、ラン。お前が常に腹に溜めとけない性分だとは分かっているが、それは俺の前だけにしとけ」
「だからしている。で?何なんだ?その塔の秘密部分って言うのは」
「やはり光ケーブルの事をコウタ班長から色々聞いて、この地下熱程度であれば、全く無傷で縦横に走っていると思うんだよ」
「そっちか!確かに俺もすげえ興味があった。しかし、一緒にやるべきコウタ班長が専任になっちまったからさ」
「連絡は常につけられるようになっている。あいつの事だから、自動的に出来るようケーブルをドッキングして、停止した端末AIを動かす事なんて事は短期間に出来るだろう。だって、動いていたものを修理する事なんて、実に簡単だろ?」
「あ・・あははは。シンは遥かに姑息な策略の更に上を行ってやがる」
ランは笑った。
「だから、姑息なって言うなって。確かに正論なんだからさ。誰も反対なんかしないしな」
シンが苦笑する。
「俺は現場で調査する。分かった事は報告するし、コウタ班長は絶対必要な者だ。その者を飼い殺しにするような考えなら、俺も立ち上がるさ、もしそうなったらな」
「おう・・そうだな。しかし、コウタ班長も2人に利用されるような奴じゃ無い。色々考えているだろう」
「ふふ・・だから、連絡役を指名している。で・・ラン、その光ケーブルは、前にコウタ班長が言ったじゃないか、被膜は500度で溶解するって」
「聞いたな」
「あの話の本意って、光は熱なんて関係無いって言う事なんだろう」
「え・・それって、南九州の溶岩どろどろの中でもか?」
「ああ、深海だろうが、宇宙だろうがまるで関係が無い。光に作用するとしたら恐ろしい程の重力だけだろうな。だから和良司令官の本当の狙いは、まず地球全土にこの光網を巡らせる事。はたまた宇宙にも光なんだから、光速で網羅も可能だと言う事だ。どんな惑星、どんな恒星であろうとな、俺は思った。ランはどう思う?」
「いや・・いやいやいや・・それ、有りだ」
「そうだろう?じゃあ、俺達の第1ドームや北九州の大地が何の被害も無く守られて来た事にも関係無い話になる」
「じゃあ・・例えば核が使用されてもか?」
「核なんて、もはや使えない状態にしていた筈だ。それをやればAIも停止出来る」
「そんなどえらい物を?」
「ああ、どえらい物を発明したんだと俺は思った。実際、とんでもない空想かなと思っていた。だけど、前に言っただろ?オオコウモリが石を抱えて上空から落とせば、ドームなんて破壊されてしまう。しかし、第1ドーム、第2ドーム、塔の上空には一切オオコウモリは飛来していないんだ。まるで避けるようにな」
「おっと・・今更だけど、そうだったのか・・それを知っている者は他に居るか?」
「リンとダンだ」
「そうか・・俺は今知った・・」
ランの眼が輝き出した。




