第三章その三 海を渡る
「そうです。ガラス板は、山切りの木こそ、南には1本も生えてはおりませんが、空から加速度をつけて手裏剣でも投げるかのようにひゅんひゅんと飛来し、或いは空中でぶつかり、激しい弾丸となり、その辺の大地や植生等に激しい衝撃を与えます。もはや動物など棲める環境では無く、地面においても足を踏み出すような間もありません。何者も近づけない状態です。風向きが変わった時には、俺達にもガラス板が向かって来ました。なので、命からがら逃げ戻ったんです」
「そうか・・そう言う状態な訳だ。じゃあ、オオコウモリとて、南には近づかないだろうな」
「でしょうね。ミンチのように一瞬で体なんてばらばらにされるでしょう。どんな兵器を持っていったとしても、とても突破出来るものではありません。ほぼ一日中無限に生産されている訳ですから」
「阿蘇山も、亜硫酸ガスでとんでも無い状態のようだし、佐賀県には得体の知れない半透明の巨大生物がいるようだしなあ・・我々の取り巻く環境がそんな状態になっているなんて、驚く事ばかりだよ」
「ですね・・この状態の中で、九州~四国を繋ぐ海底トンネルを発見しておりますが、この115年の中で、相当の地殻変動も起き、我々の住める環境すらも失われております。電磁パルス爆裂も悉く住環境を破壊し、人命も奪いましたが、この変動を予期していなかったとも思えません。ただし、こんな急激な環境変化は過去の記録に記されていないものですから、まるで分らぬ現象としか言いようもありません」
言ったのはコウタ班長だ。彼すらも全く分からない環境変化だと言うのである。
彼が分からない事を敢えて言葉に出す事も無く、ダンも黙っていたが、その中でシリマツ官吏がすっくと立ち、
「どうでしょう・・ここで提案したいのですが、どうにかと言ったら語弊も生じますが、発電施設も稼働し、今までとは格段に電力需要もアップし、我々の周囲には、電磁パルス爆裂のこれも効能と言えば、大きな語弊もありますけれど、粉砕された大地にはかなりの鉱物資源が存在する事が発見されました。その鉱物を抽出し、錬金出来る技術も継承されたおかげで、稼働している3Dプリンターによって、部品類や計器などもある程度は製造出来る事になりました。食料事情も大幅に改善致しました。ほんのこれが1年前の出来事であるとは思えぬ改善です。ここで、我々はもっともっとこれまで非オープンだった情報も開示し、教育と言う分野においても、改革を行ないたいと思うのですが」
何ら反対するものでは無かった。相変わらず、論理も明確で意図を使える言葉も正確だった。ダンもそう受け取った。そこで、彼は報告をして部屋を後にするのだった。
そして、シリマツ官吏が提案したように、頻繁にこの所は会議が行われる。しかし、それは当然の事だ。未曽有の事態、新情報に対して思う事をぶつけあうのは必然の流れなのだ。
その場で会議はシリマツ官吏が今回は仕切っている。微塵も前回の会議の不満を出したりはしなかった。流石にそこは弁舌上手で、全員が頷いている。まずは、鹿児島付近、桜島付近、佐賀県の状況はダンが中心となり各セクトに逐次報告をしている事から割とスムーズであった。




