第三章その三 海を渡る
「俺には、自分だけと言う情報なんて要らないと思っていた。事実、俺は実際にこの眼で見、体で体感をし、皆と相談をしながら、失敗も多々あるし、未知の事に挑戦して来た。危険な眼にもずいぶんあったさ。でも、前にエライ班長やシリマツ官吏が言っていたよな。情報なんて人より先に知ったと言うだけのものであって、それは自己満足な優越感に過ぎない事なんだと。俺もその考えに全く同感で、自分だけが知っていてどうなるんだと思って来た。だから、そんなものに頼らないでおこうと今まで封印して来た」
しかし、ランは言う。
「それはシンの考え、個人感だろう。俺達は今、この時間をつまり限られた中で、喫急の事もあるかも知れない。その一瞬、一瞬を生きていると言っても過言では無い。だってそうだろ?余りにも分からない事だらけ、今持ってどうしようも無い生体武器オオコウモリの監視の中で、生きているんだ。たった5万人なんだ、俺達は。神野黒服がトップリーダーだったと言う責任感があるのなら、今シンはそれを託されたエライリーダーでは無いトップリーダーたる素質を期待されてのものだろうが?そのシンが確かに情報を渡されていると言う話は俺も知っている。だけど、それは神野黒服が封印しとけと言う理由で渡した訳では無いだろう?それこそ、お前自身のエゴと言うものだ」
「エゴ・・」
「俺もランの意見に同感だ。なあ・・今になってそう言う開示の意を持ったのなら、この半年以上、様々な事を俺達は見て来た。まだ四国も探索出来ないでいる。このジレンマを断ち切るのは、もう時間が無いような気がするぜ」
他のメンバーは黙ったままだった。シンは決断するのが遅かったのか・・と頷きながら、2人の意見には素直に頷いた。
「いや、分かった。俺達は・・とても厳しい現実を見てしまった。そして、会議も重ねた。この九州の半分は既に駄目だと言う事も分かったし、佐賀の海には得体の知れない海洋生物が居る事も分かった。観察を続けているが、それが何であるかは、すぐには当然分からない。しかし、俺達がこの先空を飛べないと同様に、海も渡れないと言う事は良く分かった」
ランが更に言う。これはシンを庇っているようにも思えた。事実上トップのエライリーダーにすら渡されていない情報なのだ、シリマツ官吏が憮然として聞いている。
「この現実を持ってして、瀬戸内海や、豊後水道にあの海洋生物が居るかどうかは置いといて、今そっちの方が脅威になっている訳では無い。しかし、突き止めない以上は、下手に四国への探索も出来ないと言う事になった。今神野黒服の情報を開示すべきだと思った」
シンが言う。今度はケンだ。




