第三章その三 海を渡る
「ケン、予備があるのか?望遠鏡に設置してあるメモリーが一杯になった」
「おう、確か、遠征にあたって、シン達もそうだが相当数の予備は持って来ている筈だ。俺達もここまでかなりの量を使ったが、今度は動画でも撮ったのか?ラン」
「ああ・・今の俺にはさっぱり分からないが、奇妙なものが見えている。ケン、お前も手が空いたら、一度見てくれ」
「分かった・・じゃあ、まず予備を渡す。出来るだけ撮影をしてくれ、溶岩流も毒ガス竜巻もな、それに、発生頻度も頼む」
「了解だ。十分にデータを収集しよう」
シン達も同じく今回には相当数のデータを収集している。分析班にて様々な検証を今後していく事になるだろう。とにかく、全ては披露し、全員の総動員の知恵を合わせて現状を把握して行かねばならないのだ。それは必然であった。そして、この現場情報の収集を出来る者達は、シン達第14班を置いて他には居なかった。
こうして、3日後、ダンとシンは帰途につく。
そして、中岳の現状を見たシン達も、地球規模の大異変を感じざるを得なかった。気候の事もさして気にしていなかったが、平均気温も25度から32度でほぼ一定であり、殆ど熱帯、亜熱帯気候に自分達が住んでいる場所がそんな環境になっている事も分かった。今まで一体彼らは何を研究し、どんな方向で働いて来たのか、その実態こそをも疑問を持たねばならない事になって行く。彼らは明確な指標を全く持っていなかったのだ。そして何の指標をすら上部は授けなかった。それが神野黒服の言う悲劇の元で有る事は、この先明らかになって来る。
さて、シン達は戻るその4日前に、やはり予定に無かった西海岸を今度は北進し、佐賀県の海に到達していた。ケンはここまでは探索に来ては居なかった。ケンが見た海は長崎県であり、殆ど玄界灘と変わらぬ風景であり、やはり殆どの魚介類は見当たらなかったのであるが・・
彼らは海を見て、3度驚愕の声を上げる。海には得体の知れないもこもことした半透明のくらげのようなものが無数に漂っていたのである。
「な!何だ、あの奇妙な生物は・・生物・・だよな、まさしく」
シンが言うと、ダンも、
「生物に間違いは無いと思う。しかし、巨大と言うか、もこもこと蠢き、伸びたり縮んだり・・不気味としか言いようが無い」
「ケンが長崎県の海を見た報告の中では、そんな生物の情報など皆無だったぞ?」
「うん、ケンは殆ど俺達が海底トンネルを探した時と同じ海だと言っていた」




