第三章その三 海を渡る
「ここで、電動車を少し点検したい。異変があれば、リン。お前の動体視力に託す。すぐ伝えてくれ。毒マスクは放すな。あのガス竜巻が来たら、もう御終いだ。逃げる所は無い」
「ケン・・待て。もう少し東の海岸寄りに進もう。少なくても海に逃げる手もあるし、海岸からなら観察が出来るかも知れない。海岸まで約3キロ程度と見るが、どうだ?」
「おう・・そうか、まさかの時に海に逃げれば熱波は防げる。そうしよう」
「あ・・犬達は?」
ランが気づくが、もうケンは指示をしていたようだ。ドームに戻れと。急停止した直後にそれは指示していたようで、やはり野生の勘であろう。リンも安心するのだった。
3人の判断はこのように早い。そして動物的勘と言うか危機管理能力が長けている。犬達は、もうドームに戻り始めていた。進むのは無理だった。オオコウモリも護衛はもう必要無かったし、彼らとてこの上空を飛ぶのは無理だった。
そして、何とかガタゴトと相当のダメージを受けたが、電動車はゆっくりとキャタピラを動かせた。頑丈に作ったからなと言うランの設計の電動車を、頼もしく思う2人だった。
そして、どうにか広い海岸に到達。恐らく地図的に見て、宮崎県と鹿児島県の境辺りに来ていたようだ。つまり、鹿児島県以南の地域はほぼ壊滅と判断しても間違いないだろう。
「かろうじて命を拾ったようだ。リン、良く観察していてくれ。どうにか電動車に大きな損傷は無いようだが、修理できる部分は今からやるからさ」
「ラン・・お前もマルチ人間だったんだな」
「ふ・・出来る事は何でもやる。お前達と行動するようになって実践で色々学んださ」
ケンがにやりと笑った。リンはもくもくと上がる噴煙と頻発する300度を超える殺人ガス竜巻の行方を見ながら、
「ガス竜巻は、丁度山と山の境界があって、西から東へ風が一定方向に吹いているようだ。危なかったな、俺達が居た場所はその風の流れる位置だったようだ」
「そうか!間一髪どころか、本当に危なかった所だった」
「安心しろ、こちらには流れて来ないようだ。そして境界のようになっている。ラン、出来るだけ早めに修理出来る所があればやってくれ。俺は、望遠鏡で桜島方面を観察する」
「おう、任せた」
3人の息はぴったりとこの時点であっていた。自分達の能力を適時適応で使う。この分業こそが、シンの第14班なのである。
2日間それでも修理には時間が掛かった。徒歩で自分達のドームに戻るには、危険も多い。この境界付近にはオオコウモリも飛来していないが、野犬、猪など危険な動物達には、銃などでは対処出来ない事も多い。そして、帰るには食料を始め大きな荷物を持たねばならない。ランはその為に、帰られるだけの電動車の点検と修理を行なっているのである。一方そのリンも、上空に頻繁に発生する雷と、落下する火山弾を観察しているが、その中に真っ白い噴煙が時折上がっている事にも注視していた。まさしくこれが、あの毒ガスの元だと思っているからだが、その中で、かなり高性能な望遠鏡だが、その白い噴煙の中で、キラキラと光りながら落ちて行く物体を不思議な顔をしながら見ていた。又、この望遠鏡にはデジタルカメラが装着されており、動画を撮影するのも可能だった。その容量を満たした為、ケンに聞く。




