第三章そのニへ 新たな局面へ
その音は静かだった。シンはオオコウモリの方向を瞬きもせずに見ている。
ランの撃ったオオコウモリは撃った瞬間から1秒も経たずにどさっと・・落ちた。周囲のオオコウモリが慌てて飛び出したが、彼らにも何が起こったのか分からなかっただろう。
「やったぞ‥ラン、一発で命中した。お前・・すげえな」
「今頃知ったか・・どうだ!」
ランが少し興奮気味だった。自分の腕が確実に証明されたようだ。
それもシンにすげえなと言わせたのだ。
「正直半々だと思っていた、流石のオオコウモリでも僅か弾が発射されて1秒程の中で、ぶら下がった体制から逃げる事は出来ないと思っていた。だから、それは命中する想定だが、この薄闇の中で、ランが果たしてどれほど正確にボスオオコウモリを撃てるかと言う事も、俺の中では半々だろうと思っていた。700Mの距離は、最新式レーザー銃なら恐らく倒せるだろう。だが、ドームには無いし、今はその開発をストップされている。俺達がそんな戦争道具を今の時代に必要とするのかと言う疑問もあるからだ」
「たかが・・動物と言うが、それな人間の思い上がった感覚だとはシンは思わないか?だって、こんな生体武器すら作り出したんだぜ?人間が。それを駆逐しない限り、俺達に未来の展望は開けない。その為に群れのボスを狙ったんじゃないのか?」
「半分同感だ・・しかし、半分は俺の考えと少し違う。オオコウモリは確かに脅威であるのは間違い無い。しかし、オオコウモリの野生環境をずっと考えて来た、ここまでの観察の中で、狭い日本だけが生活圏では無いんだよ、ラン」
「大陸と行き来していると言う事だろう?」
「おっと・・お前もその情報を得ていたか」
シンが驚く。ランの射撃の腕がぴか一なのは、もうシンも認めた。
「情報通の俺を誰だと思っている。ふふふ・・飛行速度、連続飛翔耐久度・・オオコウモリの生息地、本拠がここの九州だとして、日本全国、沖縄や、北海道に限らずT国のアジア圏内まで進出していると言う事位は、想像出来る。その上で、仮にどこかの国に人類が生き残っていてオオコウモリに遭遇した場合、彼らに反撃や攻撃が出来る手段があったなら、少なくてもこれだけの数が今この周辺だけでも生息しているんだ。とてつも無い数が居るんじゃないかと想像しても、何らおかしくは無い。オオコウモリは2年で子孫を残し始める。それも多頭生まれるよう遺伝子操作をされているし、寿命も50年以上あると聞いている。その間には、死ぬまで子を産むだろうとも言われている。一つの番の子が巣立ちするまでたった3ヶ月なんだ。子を年間4回出産する事も可能。それも遺伝子操作だったよな。単純計算で12頭の子が一番から生まれる。100年も経ったなら恐ろしい数だぜ?シン。それも絶対王者で、天敵も居ないと来たら、食糧を調達するのに、どんどん生息エリアを増やしつつあるだろうなとそう思っていた」
「ふふ・・ふふふ・・全く同じ見解だ。日本が生み出したからここが本家であって、ここが主な生息地だと決めつけていたが、それは違う。彼らは自由なんだ。でもさ・・ラン、大きな間違いが一つある」
ランは不思議そうな顔をして、シンを見つめた。




