第三章そのニへ 新たな局面へ
「思えば・・シンの提案は、ダンの理念の事も突っ込んでいたけど、相当先を見越していたんだよなあ・・」
ランが久しぶりにリンと話をしている。ケンも『戒』とすっかり相棒になり、最近では唯一体を密着させる間柄になっていた。そのケン達と少し離れた場所で、自分はこう言う活動が一番性に合うんだと、リンが言っていた。
「一つ一つがさ・・正確なんだよ。そして、それに基づいたダンの理想気味の言葉にもシンが笑っていたけど、そんな先じゃ無いんだ。今現実にある物や現象を繋ぎ合わせるのが本当に天才的だよ、それには誰も追随出来ない。だけどさ、ランにしてもダン、ケンにしても第14班の役割が非常に高まって来ている。自負する訳じゃないけど、シンから見せてくれた神野黒服のDVDには、今まで知らなかった情報が一度に出て来た。けど、俺達が自分の眼で見、聞き、判断して来たものがほほ的中していた事にも、やっぱりシンの正確にものを見る眼と、ラン・・お前のように情報を集め、きちんとこれも整然と整理できる者が居た事も大きいよ。*俺達は恐らく5人一緒なんだ。それぞれに入る知識や、能力は早い遅いの違いがあっても、自分のものになっている。以前の俺達には無かったスキルが身についているって思わないか?それはシンにも分けてやっているんだよな」
「おう・・それは感じるよ、凄くな」
*意味深な言葉だが、後年分かってくる彼らはまだ序章の中にもがいているのに過ぎない
ランも遠くのケンとピンの様子を眼を細めながら見ていた。
「だけどさ、オオコウモリの子を捕獲するって聞いた時、何を考えているんだって思ったけど、調教するとはな、凄い手だよ」
ランが言うと、
「ああ・・誰も思いつきもしなかった。敵であるなら戦うと言うのが本来の姿だもんな、ひょっとしたら、ダンの理想じゃないけど、シンはもっともっと先を見ているんじゃないか?なって・・」
「それは‥飛躍し過ぎさ。だって、俺達はやっとこそさ、旧文明の利器に縋り、ドーム周辺で行動エリアを広げたばかり、それに神野黒服のDVDによって、放たれた生物も分かった。それ以上の生息は無いと言う事だよな、現時点において」
「うん、基本はそうなる。だけど、地下深くとか、深海の中とか必ずしも電磁パルスのあまねく影響を受けていない所もあると言う事だ。ハニカムチューブとか構造の事も言っていたが、それが電磁パルスを防ぐ防壁なら、世界中のどこかでやはり人類は生き延びているし、T国が一番その可能性が高いと言う話だろ?」
「それも・・100年前の話なんだよな・・オオコウモリがカラスを襲い、食った・・その後、コウモリを生き延びらせ、生体武器では無い用心棒代わりに放したと言うんだよな。そこに食料も与えた・・と」
「ああ・・恐ろしい連鎖だよ。でも、手段は無かったんだよね」
「放っておいても逆に良かったんだよ、食うものも無い生体武器であろうともカラスは死ぬ。餌が無いんだからな」
「きっと狼狽したんだよ、これは脅威が続いていると、すぐそこにT国が攻めて来ているんじゃないかって」
「そうだなあ・・そう感じるよなあ・・誰だって。情報も無いんだからさ、一切」
「言葉は悪いけどさ、良く眼が見える俺が、真っ暗闇の中に放り込まれたら、やっぱり恐怖で発狂するかも知れない。そして、そこまでメンタル面も鍛えて来なかった、何の外的プレッシャーも受けなかった、エリート達がそんな現場に直面したら、まずやられるわな、精神が。それが、失敗した第1段、第2段の実働班だった」
「うん・・その通りだよ。俺達は、だが違った。死への恐怖を逆に取り除かれる訓練を受けていたんだ。だけど、真逆の論理を神野黒服は打ち出した」
「俺達が今生存出来ているのは、神野黒服のお陰さ。第1世代で学んだ事を第2世代の黒服達が、次世代に託してくれたんだ」
2人は遠くを見つめた。ケンと『戒』が戻って来る・・。




