第三章 その一決意
「ふうん・・嗅覚が発達している犬は、俺達に牙を剥いた時は飢餓状態で、是か非でも襲う状況にあった。しかし、今は、与えられたオオコウモリの燻製肉を食い、腹は満たされている。そして、象の道も、オオコウモリの臭いも本来は忌避すべきもの・・なのに、平然とした顔でこの犬がここに居る。不思議だよなあ、鼻が馬鹿なのか?」
「ぷ・・有り得ねえわ。シン、そんな冗談を襲って来るかも知れない奴を相手にかますんじゃねえや。まあ・・でもさ、中には変わりものも居るだろうしな、ははは」
ケンが笑う。全くこの犬に動じる様子は無い。観察しながら銃に手をやるシンとは対照的だった。
しかし、シンはそう言いながらもケンに、
「ケン、餌をやったからさ、お前を主人と見たのかも知れないぜ?」
シンが言うと、ケンは手を振り、
「よせやい・・本来徒党を組むべき野犬の中で孤高を貫く奴なんだぜ?こいつは」
シンがその犬に近寄った。途端に牙を剥き、ぐぐうと唸り声をあげる。
「ほら、見ろ」
ケンが言う。
「じゃあ、お前がこっちへ来て見ろ」
シンがケンを手招きすると、犬は牙を収め、少し低い声でぐぐぐと喉を鳴らしたものの両耳を後ろに下げたのである。
「ん?何だ、何だ?」
不思議な顔のケンに、
「それ・・従順のボデイランゲージだぜ?恐らくな、ケン」
「ボ・・何だって?」
「だから、俺とお前では明らかに態度が違うって事だ。お前には牙を収めた。つまり敵と見なしていないって事だよ」
「何だと?相当な変わりもんだな、こいつは」
ケンが犬を見ながら顎を擦った。
「犬って言うのは人間と何万年と過ごして来た種だ。案外人間とは先天的に敵対関係を持っていないのかもな・・ほれ・・餌をやって見ろ、昨日と同じオオコウモリの燻製肉だけどな・・でも、3分の1位にしとこう」
シンの真意は知れない。しかし、ケンは試しにそれを犬の前に放ると、嬉しそうに尾を振り頬張るのであった。
「ありゃりゃあ・・こいつ」
「ははは・・ケン、お前をパートナーに選んだようだ。こいつをお前のパートナーにしてやれ、何かの役に立つかも知れん。所作も見ていたが、かなり賢そうだし、オオコウモリの臭いも、象の臭いも気にならない犬なら、この辺の番犬にもなるしな」
「でも・・何で?」
「確か・・お前は、この犬に何やかやと、俺と別れてから後も理解も出来まいがなと話しかけたと言ったよな、多分、こいつに言語を解する知力は無くても、感覚的に感じたんだよ、何かをな。それが俺達先祖がとっくの昔に失ったと言う第6感・・感覚なんだよ。こいつの眼をじっと見ていたが、動物は良いよな・・変な野心と言うか雑念が無い眼をしてやがる。純粋なんだよ、ほれ・・名前位つけてやったらどうだ?お前を絶対こいつは裏切らない・・それだけは言える」
「え・・本当かよ、シン・・分かった。野外活動もこれからどんどん増える。なら、お前のような相棒が居たら、少しは心強いかも知れんな。耳も良いし・・でも、鼻・・お前それは利くのかよ・・象の道は平気だし、それって‥大丈夫かな・・ばりばり食ってるしな、お前ら犬族が怖がるオオコウモリの肉を」
「ははははは」




