第三章 その一決意
シンがにやりとしながらそう言うと、
「なかなか見どころがある奴だと思ったんで、そのまま背後から襲うようなら、やっぱりシンが言うように俺は撃ち殺そうと思い、目的の湖と、もう1本の象の道を今日の所は見て回って来ただけだ。ここは1回の探索だけでは到底無理だ。観察するなら監視小屋も居る。しかし、猿は山切りの木を忌避していないし、この犬のように象の道に侵入して来る外敵がいたら、単独行動は危険だ。シン、お前ならどうする?」
ケンは、シンにそんな事を聞くのであった。
「やはり野営をするな・・俺もさ」
「猿は結構やっかいだぞ、オオコウモリ程度の知恵がある」
「その猿だけどさ、日本古来の日本猿とは、もはや違う種らしいや、ダンに聞いたんだけどな」
「・・初耳だ。もう少し教えてくれよ、シン」
「第1ドームは動物や、遺伝子科学の実験場でもあった。だから、産業資料館にも殆どの動物標本がある。それに、試験管ベビーの事も聞いているが、殆どの遺伝子・DNAが保管されていると言う事だ。崩壊した科学時代では、一片の細胞があればクローン等も容易に創り出す事が出来たと言う。そのクローンが産業資料館には一切無いが、これは逆に遺伝子の負への危惧だと思う。だから封印されたんだ。一方、生体武器や人間の優性遺伝子開発と共に、自然界で生息する動物達にもそう言う遺伝子が開発されていた‥恐らく力を傾注していた生体武器が一番なんだろうけど、猿や牛、豚等の家畜の疫病なんかも流行った時期があってね、そこまでの抗生物質多用から転換し、種の生命力や免疫力等を向上させようとしたんだよ、その典型例が、まずは象だった。有益に見えないかも知れないが、その実の中に、毒すら持っている大葉を食する・・これは単に偶然では無く、その大葉を体の中で分解する酵素に注目したんだよ。だからこそ、俺が注目しても良い筈なのに、象の事を無害と位置し、全くここまでノーマークだった。しかし、リンが象の糞を土壌改良、肥料としていち早く注目をした。これは、ケン・・君にとっても植物分野で非常に興味がある事だろう?」
「遺伝子・・改良・開発か・・大葉・・うん、とても興味を持っていたし、象の事にシンが着目を見直し始めたのはそう言う事なんだな?それに、酵素・・非常に興味のある話だ」
「だろ?人間や動物にとって、酵素って非常に大事なものなんだよ。だからこそ、旧時代の科学者達が向かった先の一端が見えて来た気がしたんだ」
「成程・・着眼点が全く俺達と違うわ・・で?猿も混雑種と言う事か?犬も?」
「どうだろう・・猿の場合は既に旧時代に台湾猿と日本猿の混血がかなり進んでいて、それは、地球全体の人類にも当てはまるんだけど、その中から固有の種と言うのを日本は非常に大事にしていたらしい。だから、産業資料館に保管されているのは日本固有の純血種だ。言ったように、骨からでもDNAが抽出されるから、そこからクローンを創り出す技術は相当に進んでいた。そこの出発点が違うんだ。そこからそのDNAを交配・繁殖させると言うのが日本の姿勢なんだ。今、ドーム外の野外に居るのは、間違い無く、本来日本の土地で生まれた固有種なんだ。しかし、その固有種には、優性遺伝子が組み込まれているのだと思う」
「成程・・目的の出発点が他国とは違うと言う部分だな・・その考えで行けば、オオコウモリなんて言うのは、全くの異種になるよな・・象だって、他国から持ち込まれたものだし」
「ケン・・その通りだ。俺は、だから・・そこ?と言う部分で、着目したんだ。日本独自の固有種を戻そうとやっていた主旨と、この2種は全く違うじゃないか。それに全ての動植物が一端地上から消えたんだろ?*何故消えた?愚かな指導者達のせいか?否・・もっと突き止めて見たらば、全てキャンセルした所から始めたいと言う意識もあったのでは無いか・・その計画を、もし誰かがしたのなら恐ろしい発想なんだよ・・それを考えて見たりもした。勿論、何度も言うが、俺の妄想に過ぎないけどな、その辺は」
*重要部分に繋がる
シンは、非常に背筋が寒くなるような事を本気で言った。ケンはその言葉に硬直するのだった。そこまで・・この男は考えていたのかと。




