第三章 その一決意
こうして、ケンも象の道の探索に向かった。シンの目的が着実に進行しようとしていた。確かに象の道は安全だとは言えないまでも、ここまで事故も無かった。それを完全に大丈夫だとはシンも思ってはいないし、高い防御力を持つケンの潜在能力を知っているシンは、それを信じて送り出した。勿論、サイレント連射銃を持っている。万が一にはそれを使用する事も有り得る。
そして、その有り得る状況がケンにやって来た。大きな野犬が象の道に飛び出して来たのだ。
「野郎・・犬は臭覚が優れていて、象の臭いが嫌で忌避していたんじゃ無かったのかよ・・おーお・こいつ・・牙を剥いてらあ・・さあて、どうしようかな」
野犬は大きいが、一匹だけであった。余程腹を空かせているのか、真っ直ぐにケンに牙を剥いていて立ち竦んでいる。引くつもりは無いようだ。
「でも、良い度胸だな、こいつ。数が居れば銃も使うが、どうしようかな」
ケンは非常に冷静だった。
どるるるぅ・・かなりの大型犬だ。シェパード程ある体で、恐らく純血種では無いだろうが、そう言う血を受け継いでいるのだろう。
威嚇をするだけで、ケンのガタイも大きい。なので、いきなり襲って来るような様子は無いし、面と向かい合って、瞬きすらしない人間に用心をしている様子だった。
「なかなか頭は悪くないようだな。そうだ、用心するのは賢い証拠だぞ。人間と言う相手を見たのは初めてか?群れに染まらない野郎のようだが、なかなかの根性だ。うん、そんなに嫌いじゃないぞ、お前」
ケンはかなり余裕の表情だ。いざとなれば、この犬と素手で格闘してやろうかなどと大胆にも思っているのだ。これが、肝の太い男ケンの真骨頂だったとは、初めてシンはその素顔を見る思いがする。
ケンが、一歩前に進んだ。野犬に一瞬たじろいだ様子が見えた。まさか、真っ直ぐに好戦的に向かって来るとは、この野犬も思わなかったのだろう。ケンはもう一歩前に進む。野犬は牙を剥いた。飛び掛かる体制で低く身構えた。ちなみに狼が人を襲って食うと言う話があるが、狼が人間を襲う事は殆ど無かったと言われている。野犬も空腹でどうしようもない時には群れであれば、攻撃して食う事もあるかも知れないが、稀だと聞いている。
「そうか、お前も必死なんだな・・良し、これをやる、食って見ろ。お前が象の臭いや、オオコウモリなんて恐れが無いのなら、この肉をくれてやる。だが、尻ごみするような奴なら、去れ・・攻撃をしてくるのなら、俺はお前を撃つ」
ケンは、短銃を右手に持ち、左手で腰にぶら下げていたオオコウモリの燻製肉をぽんと野犬の前に放り投げるのだった。驚くのは野犬だ。何が眼前に飛んで来たのか判断が出来ない様子。
「食って見ろ、それを。お前が食うのなら、俺はお前を殺さない。だが、向かって来るのなら俺はお前を撃つ。一匹で生き延びていける程自然や優しくねえよ、だから引導を渡してやる。そこから動かず、このまま睨み合っている状態の場合は、お前を威嚇する為に、天に向かってやはり短銃を撃つ・・これで選択肢は3つになったな・・どうだ?どれでも選べ」
ケンは野犬と眼光鋭く向かい合い、見つめ合いながら、そんな事を言うのであった。
が・・ぐるる・・野犬は何と、ふんふんとその肉の臭いを嗅ぐや、がつがつと食い始めたのであった。ケンが恵比須顔になった。




