第二章その六 そして再始動に
しかし、そうでは無い事は、ランもダンもカンジも分かっていた。そこまでオオコウモリの様子を手に取るように分かる者は居ないからだ。
このオオコウモリを持ち込むと言う事は、シンが組織に告げていて、すぐに遺伝子担当のメンバーが向かった事も、ランは聞いていた。何かを考えているのだ、シンが・・しかし、あの会話からも、オオコウモリを最大の敵と位置させて対峙しても、人間には今の所勝ち目は無かった。そして、当初の予想よりも遥かに多い数が生息している事もあって、どんな秘策があろうとも現状では不可能に近かった。
「しかし、あれ・・どうするんだ?」
おおっと・・カンジがどストレートに聞きやがったとランの眼が点になる。
それに対して、シンは何も隠さなかった。
「カンジもちらっと最近聞いたと思うけどさ、俺達って全員試験管ベビーなのさ」
「あ・・ああ・・それは聞いた」
何でそんな脈路の話になるのだろう?カンジは久しぶりに第14班のメンバーと行動をして少し懐かしい気持ちと共に面食らった。しかし、シンは構わず続ける。このシンに限っては、底が知れないのだ。普段はべらべら喋らないが、重要度のある話になるとぐんと眼の色が変化する。この事は一番ランが知っていた。彼が自分から話をするように仕向けた方が、自分は動きやすいと思っていた。カンジはそんなシンの事をまだ良く分かっていなかった。だから、少しどきっとしている。
「もはや、自由恋愛ってあるのかも知れないけど、優性遺伝子の法則と言うのが出来上がっていてさ、殆どその組み合わせは、AI管理で行われていたんだ。そうしないと、人類は、がんや、あらゆる病気に対する免疫性や、遺伝子的に異常が出たりする確率って言うのもデータ化されていてさ。将来の人口に到るまで綿密なものらしい。と、言ってもさ、俺達は実際何も出来やしないんだよ、カンジ。もはや、そんな後戻りをするリスクを負える程、人類には未来は無い。何でこんな話をするのか、カンジは寡黙だし、必要以外の事は余り口には出さないけど、こう言う事に実は詳しいだろう?そう思って今、こんな話題から始めた」
「そうか・・俺が遺伝子分野の事も少し詳しいと知ってそういう話をしているんだな」
「ああ、そうだ。その上で、生体武器オオコウモリも、ドームで飼育していたのを放したって聞いているが、自然界で育った、今の個体じゃない。人間と同じなんだよ、遺伝子操作のDNA設計の改編によって誕生した化け物さ。それを恐らく放したのは、T国の生体武器カラスが大挙押し寄せたと思うんだ。そして、そのサンプルも第1ドーム内にある」
「そうか・・知っていたのか、極秘のシークレット情報だったのにさ」
「ふ・・やっぱりな、カンジ・・お前も遺伝子班のメンバーだったんだ」
「あ!カマを掛けたのか!シン、お前っ!」
カンジが怒り顔になった。ランがすぐ、
「止せ・・シンはそれだけの特命を受けている。そんな些細な事を知られたからと言って、どうこう言う問題でもない。ただ、そうらしい事は、今確認出来ただけの話だ。それによって、出来る話と出来ない話があるから、シンは確かめたんだよ」
「一体・・何を言いたかったんだ?シンは・・俺達はかなり前からシンが少し違う立場の奴だって思っていた。それは、階級だけじゃない。さっきの眼光にしたってさ、数々のここまでの事も、シンが中心だった。エライ首班もシリマツ官吏も関係が無い。殆どシンのシンMAPと言う所から始まったんだ。そして、今は階級も違うさ、第14班の班長だもんな、そして上の命を受けて動いているらしい事も知っていた」
「多くは言わないよ、そしてカンジが言いたくなかったら、言わなくても良い。でもさ、俺達は、全て昔も今も管理されているんだ、AIと言うシステムにね。そして、もうそれは人智を超えている所に、どうしようも無い部分がある。どんなに考えたって、またやろうとしたって、人のやれる限界がある。まして、今の遺伝子工学、生態学の世界に、人間がやれる事なんて、たかが知れている。その上でさ、オオコウモリを生体武器として開発した原点が眠っていると思うんだ。勿論、カンジ達がタッチなんてしていないだろう。でもさ、115年前・・いや、200年以上も前から開発がされていた痕跡は取り出す事が出来る。そして、あくまで操作するスイッチを押すのは、人間で無くてはならないんだ。この意味が分かるか?」
「何となく・・分かって来た・・つまり、指示する立場、決定権を人間に取り戻す為にやると言うんだな?感情の無い機械では無く・・その為には正しい認識を持つ指導的立場の者が必要だと言いたいんだな?シンは」
カンジが、相当な部分まで理解していなければ、こんな答えなど絶対に出なかっただろう。




