第二章その六 そして再始動に
塔のセキュリティが解除され、第1ドームからの光ケーブルも設置された。当然オオコウモリがそのままの状態でいる筈も無い、完全に人間を敵として認識している彼らは、隙があれば襲って来た。しかし、今の人間達も非力では無い。次々と防御策を駆使し、或いは狙撃もした。オオコウモリの実態数がどの程度なのかは分からないが、シンは恐らく爆発的に増えたものと思っているし、予想外にT国の生体武器カラスが日本に飛来していたのだろうと言う情報も神野黒服から聞いていた。5人は、もう以前の第14班では無かった。何となく、エライ首班の第13班も、シン達を中心にして次々と現状から突破口が開ける展開を、納得して行くようになる。そして、シリマツ官吏がその情報を与えられたようだ。
「そうですか・・我々の先祖はベスト50・・殆どの者達にも限られたDNAを持つ試験管ベビーとは聞いておりましたが・・分かりました。シン班長達トップ5が第三世代の牽引者であるのなら、従うのみです。むしろ、心の中で、そう言う期待もしておりました」
そう驚く様子も無かった。シリマツは、殆ど神野黒服の直属と言う形でリーダー補助となるべくカリキュラムも受けていたし、ベスト50の一員である事の何等かの情報は与えられていたのかも知れない。それがはっきりした事で、自分が何を成すべきかは分かって来たのだった。
第14班のトップ5が、これから自分達の上司になる事は無いとはっきり言われた。職制などあっても無いに等しいとも言われたからだ。少しばかりの階級の違いで持って、個人感を丸出しにして意見をごり押ししたり、逆に正しい意見を阻止したり、破棄したりしないように、また上司であろうとも意見を言える事が、今後の方針なのだと言われたからだ。ベスト50=トップ5も同じ事だ。DNA優性種生存の法則と言われて数100年前から人類が行って来た手段なのだ。それは、人口減などの要因も多分にあって方向が決まったである。それも全世界的な傾向であり、一般のドーム内の者もそう言う意味においては同じ方向性を持つが、厳選はされていないのだ。だから、これも崇高な人間と言う価値観や尊厳を軽視した言葉では無いが、ばらつきが生じる。つまり、カリキュラムとは、その実シン達も行ったように選別なのである。彼らは、種を残す為に選別されて行くのだ。試験管によって生産されるべき運命を担っているのだ。シン達はそれを聞いた時愕然としたものの、この先人類が過酷な環境、未知なウイルスに立ち向かい、種として生き抜くためには、必要な事なのだという事を知った。気持ち的には複雑であったのはシリマツも同様だった。
シリマツはその足でシンの所に向かった。既に階級など関係は無いと言うものの、シンは、第14班の班長だ。その辺はしっかり分けているシリマツは、丁寧な言葉を使うのだった。
「シン班長、塔の稼働については、この前コウタ班長からも説明を受けましたが、気になっているのが間欠泉の動向ですが、いかが判じられるでしょうか?」
目上のシリマツ官吏であり、嘗ての上司だ。言葉使いを戻してくれと言うのだが、彼は頑として聞かない。シンは、
「ずっと・・観察は続けて来ました。ある情報に依る所では、嘗て第1ドームと第2ドーム、塔下部には地下坑道があったそうです。そして意図的に封鎖されてしまったと言う事ですが、どこかでその間欠泉の圧力が高まり、耐えられない時には、地上にその蒸気が噴出すと予想しております」
「と・・言う事は、塔から離れているのでしょうか?塔がこれまで115年以上も無傷で有る事を思えば、間欠泉は、塔の直下では無く、だいぶずれていると見ましたが」
「ご賢察の通りです。我々もそう言う結論をしても良いのかと思っております。かなりの重機が必要ですが、オオコウモリの襲撃頻度も非常に多くなっており、少しでも隙があれば襲って来ます。本来はボーリングと言う手段があればと思うのですが・・」
「しかし、それは電力不足と、外での作業ですね」
「はい・・」
シリマツ官吏は鋭かった。*ベスト50の遺伝子を持つ者だ。どこかでその才能がちらちらと顔を出して来るのだ。
*シリマツ官吏は後で判明するが、少しベスト50遺伝子とは別系列




