第二章その四 個性
「いや、でもさ、大体の居場所が分かれば、巣毎吹っ飛ばすって手もあるかと思ってさ」
「成程・・オオコウモリと言えども、休息したり寝る時もあるってか、でもさ、超音波を駆使し、俺達に聞こえない周波数を聞き分けるオオコウモリだ。少しでも異変があれば気づかれるさ。愚策だな、それは」
「いや、散弾型の大砲なら、角度を変えて数か所から一度に撃てる。そうならば、幾らオオコウモリと言えども、逃げる術も無いだろうと思ってな」
「恐ろしい事を考えたな、おい、ラン」
シンが眼をくりっとさせた。
「いや、あっちから来るのを防御していたんじゃ駄目だと思うんだ。人間が自分達をターゲットにし始めた位に思わせ、こちらもやらないと、通路もこれ以上は増やせないし、また増設する考えも上には無いようだ。もう建造物2か所を発見したと言う目的を達したんだからな」
「そうだな・・一応初期ミッションは完遂した。しかし、次のミッションの指令は無いがな」
「待っているんじゃ無いのか、俺も手伝っているが、コウタ班長のセキュリティ解除をさ。これが無けりゃ、進む事は出来やしねえ。どうにか、ケース内のキーを解除して、使用出来る物を稼働させる。また、発電所を稼働させる。その2つだろう?」
「まあな・・」
シンは、それ以上の言葉を噤んだ。ランの言うその通りだと思うし、自分達にはやはり道具に頼るしか無い現実を思うのだった。人間は弱い。だが、知能がある分様々な事をつい考えてしまう。しかし、機械は感情を有しない、コマンドやボタンを押されれば、忠実にそれを実行する。それが115年前の人類の悲劇では無かったのか・・
こう言う状況になっても、ドームから黒服が野外に出て来た事は一度も無かった。シンには、それが少し不思議な事でもあった。また、コウタ班長のように、殆どここまで自分の意志を貫き、現場にはエライ首班と言う立派なリーダーが居るのに、行動しているのだ。彼が誰もが持ち得ない頭脳を有している事は分かる。しかし、1人の人間にそれだけ重要な事を託して良いのかと、ふと思う時もあった。ヤマイは、この所片時も離れず、メイ・リー博士と言う初めて野外に出て活動をする女性達と共に居る。まだまだ自分達の出生の事や、分からない事ばかりだが、このオオコウモリを第1ドームから放した第1世代が悔やんだと言うのなら、人類は何度も過ちを繰り返した事になる。そしてAIが勝手に稼働したのでは無く、やはり動かしたのは、人類の感情部分だと言う事だ。消えた第1世代・・本当に集団自決をしたのであろうか。しかし、外で生きていた痕跡は鉱山坑道内だけだった。思いは尽きない。色々思考はぐるぐると回って行くのであった。
ランと入れ替わり、ケンがシンの所に今度はやって来た。相変わらず、何となく現場の者達は、シンの所で色んな話をしていく。シンも今の所、特にやる事は無いし、オオコウモリ達も常時通路上空から隙あればと人間達を狙って来る。一歩も今は外に出られない程だった。象の道も、中央付近は大丈夫だが、少しでも道の端に寄ると、黒い弾丸のようにオオコウモリが襲って来る。今や、完全に人間達は包囲されているのである。
そのケンは、
「なあ、シン。そろそろ雨季に入ると言うのに、オオコウモリの圧は相変わらずだな。一歩でも通路以外に出さずで、通路上にも、常時飛び回っている。だけど、奴らは逆さまにならないと鶏のように2本足で立てられないんだな、何かその辺が滑稽だよ」
「滑稽?面白い事を言うよな、ケンは・・ははは」