第二章その三 次の一歩
余りに理論構築的にも実証と重ねあわせても推論とは思えなかった。合致するからだ。シンもこれ程までにコウタ班長が全てにおいて、その天分を発揮して考えていた事に驚くのであった。
「検証は行なわれた。恐らく第1世代の声を聞く事は出来ないのだろうが、悲観し、絶望し自決するまでの数年間は、色々やったに違いない。最初に放たれた動物が象であると考えた。象は、草を食べ、糞をする。それによって体内にあった消化されていない種子を大地に撒いて行く、種子は驚くべき速さで恐らく増殖したに違いない。そして植生もあっと言う間に出来て行く。そこでオオコウモリの他に、猪、鹿などの動物も放たれ、大葉も更に植えられた。やはり、その繁殖力は凄い。だが・・それでも希望はここで繋がった筈だ。動物達が死ぬ事が無いのなら、電磁パルス爆裂の起きた20年後の世界は、人も住める実証が出来た訳だから。しかし、その第1世代を悲観させたもの・・これが、日本の何重にもよる、電磁パルス爆裂攻撃、生体武器攻撃を防ぐ、或いは反撃出来る手段・・塔の役目では無いか?と自分は考えた。その20年後の世界では、やはり電子信号などは全く使えない。中央管理システムからの指令も遮断されているし、畜電池にしても20年以上も持つ筈も無いので、AIはもはや人類にとって、ただのがらくたに成り下がっていた事だろう、そこに来てやっと人間が主導の世界を取り戻したと言うのに、じゃあ何故悲観するのか?利便を失ったからか?通信網、交通網を失ったからか?人類の快適に住める環境を失ったからか?それは分からない。しかし、自決をした痕跡が明らかになって来て、1人も第1世代の者はドームには生存していなかった事も、ほぼ解明された。人類の寿命が150年にも延び、十分にその世代が生き残っていても不思議が無いのにである。そこで、それを調べるには第二ドームと言う産業資料館に残るデータを調べるしか無い。勿論アナログの方法で」
コウタ班長は一気に喋った。しかし、まだ塔の事を話しては居ない。少し間を持った。誰も次を促す発言はしなかった。
「そこで・・この塔の存在を知る必要がある。窓も無い、象徴的な建造物でもない、煙突でも無いこんな奇妙な建造物が、数々の呪文のような模様によって装飾され、凹凸を持って何かを伝達する象形文字のようなね・・つまり日本人の使用する漢字の原型と考えたら、部首に相当するのではと自分は考えた、ならば、ある程度法則性を持ち、暗号化されているので、他国からも容易にハッキングされにくい。つまり、重大な暗号が、この塔にあると言う結論に行き着く。塔の分析のみならず、自分は今、二人のメイ・リー博士、そしてヤマイ君を交えて第二ドームの収蔵資料の解除に成功した。一気に製造年代、その産業物の用途や使用方法などのデータを入手した所である」
「何・・」
少しエライ班長や、シリマツ官吏の顔色が変わった。自分達の知らぬ所で、そんな動きがあった事を今知ったからである。
「静粛に、公開している以上、秘密裡の行動では無いと言う事だ。それにまだ説明もしていない。推論だと申し上げている以上、実証は後からついてくるだけ。我々は、まだ一つのセキュリティを解除したのに過ぎないし、予備電源で、この巨大な塔や、ドームを稼働するものは補えないから、部分的に、可能な容量のPC端末に落とし込んで行き、その容量が足りない時は、文章として筆記し、残して行かねばならないのだから、この作業量を今存在する人員に分散しても、これだけでも数年、或いは10年単位で過ぎてしまう事を、承知の上で話を続ける。よろしいか?」