第二章その三 次の一歩
「実際にAI=第2ドームの管理端末の事・・を動かすまでには、メインAIのセキュリティを解除しないといけない。マスターキーが、多分どこかに保存されているんだとは思うが、まさか塔が巨大なAIだとは想定は出来なかったぜ。と言っても、それでもこれが端末なんだがな。中央管理システムから直接指令を受けるAI端末らしいや」
ランが言うと、シンも、
「ああ・・その新情報にも驚きだ。それなら、実際に塔はエネルギーが充填された時点でスイッチオンの状態になる。その発動がどんなものになるのかは分からないが・・これは一種の賭けだぞ?本当に破壊高分子だったら、今度こそ世界は完全に終わる。だけど、これがオオコウモリを野に放ち、土壌改良まで計画したものだったら、オオコウモリ生体武器を破壊するものかも知れないしな・・今の俺達では、少数のオオコウモリを排除出来ても、どの位の数が生息しているのかは分からないが、それを滅殺するのは不可能だ。ここから逃げたとしても、どこかでまた繁殖を繰り返すからな。それらを一網打尽にしてしまうのだとしたら、今度こそ生態系は本当に消える」
「急ごう・・AIに人類最後の希望をまだ託するなんて嫌だよ。俺達が主賓になろうよ」
ランは強く言った。シン達も同様の意見だった。そして、その危惧も既に神野黒服に伝えてある。いずれ、表にも出て来るだろうが、彼は、今はとにかく第1ドーム内を離れられないと聞いた。だから、自分の意を汲んだ者達に任せているのだ。それを感じるに、やはりまだドーム内組織は、落ち着いていない様子が伺えるのである。
すぐエライ班長に相談した。事実上この現場のトップは、エライ首班だ。
「うむう・・確かにそうだ。塔がそのままAIになっているなんて想像は出来なかった。しかし、色んな関連をここまで調べて来て、高分子砲の実際の目的も、その威力と言うか影響も全く分かっていないんだ。それに、こんな大事なものが、東京にあるメインコントロールシステムで制御されていない訳が無い。と言う事は、単独でこれを動かそうとしても無理なのでは?」
その見解は、常識的に聞こえた。誰もがそう思う。しかし、事態が急変し、20年後実際のドーム野外に出た者達はどう思っただろう、どうにもならない現状に直面し、悲観し集団自殺したのでは無かったのだろうか。ならば、日本人だからこそ、そこまで考えていたとして、個々のAIは、その中央制御が無くても、単独で施設を動かせる位の制御があっても不思議は無い。逆にそうならざるを得ないのでは?そのメインを攻撃され破壊されたとしたら、それこそ、国の機能がストップするのである。実際に全ての国の機能がストップしている状態と見られる中で、それこそ、滑稽な話になってしまうのだが、それでもなお、20年後の世界を想定して、冬眠法まで選んだ第1世代達は、それを見越していた筈だ。ランの考えとシンの考えは、共通している。そして、そちら方面に詳しいキョウ班長も同感の意を示す。
「こう話ばかりしていては、埒がいかない。確かにエライ首班の判断は正しいのだと思う。しかし、俺達でやれる所までやって見ないか?そのヒントは塔内部の模様にあると俺は思うんだ。だって、塔内部の凹凸模様は、この産業資料館の門を開いただろう?」
「おう・・シン、俺もそう思っていた。それに、何やら、オオコウモリの動きが活発だ。かなり我々達を標的に襲って来ているようだ。リンが言っていたが、今の所、危ないと思えば、サイレント自動連射銃で応戦していると言う事だが・・」
「オオコウモリも何かの動きを察して、黙っている筈が無いよな、何かを感づいているようだ。俺達人間が、自分達の生命を脅かす何かをしようと動いていると判断したようだ。そんなにすんなり彼奴だって陥落するもんかよ。今この世界で、圧倒的優位に立っているのは、オオコウモリ達なんだからな」
「そうだな・・それは、動物的勘と言うものでも分かるだろう。だが、建物や本当に大理石が集中超音波攻撃で持つかどうかの俺達は検証すら出来てはいない。実際電磁パルス級の破壊音波かも知れないしな・・こんなやわな建築資材が持つかどうか・・」
シンが憂い顔。