第二章その三 次の一歩
「オオコウモリが大集団になって、我々の通路延長工事を監視している模様です」
「予想された事だ。もし、危害を加えられる恐れがあるならば、狙撃班も待機させろ。だが、無駄に弾を撃つな。良いか!」
様々な指令が飛ぶ。第2ドームへの通路確保と、かなり大きな発電施設整備、また肥料工場と言う事で、幾つもの建造物が必要となった。第1ドームより延長された複数の通路において、その建設工事が始まっている。大規模工事である。しかし、それも山切りの木を1本も切り倒してはならないと言う事で、工事進行が成されているのだった。
「電線や電源コードは確保できているか?」
「かろうじて・・どうにかあります。しかし、予備はもう残り少ないです」
「そうか、まあそうだろうな。しかし、発電設備が整えば、かなりの製造工場も第1ドーム周辺に持って来られるだろう」
「と・・言う事は、もう稼働出来る見込みがついたと言う事でしょうか」
「その為に技術班や、作業班がかなりの人数で派遣されているんじゃないか。我々は、これを期待して実働班を組織したのだよ。実際第13班、14班、15班の活躍は、眼を見張るばかりだ」
「は・・」
その者は深く頭を下げた。
そのシン達だが、やはり産業資料館の事については、灯りが一番先に可能になった事と、彼らが通路構築まで、調べる時間は十分にあった。その結果、分かっていなかった事もかなり出て来たのである。
「時代検証的に整然と並んでいるようなそんな感じで見て来たが、案外テーマがあるのかも知れないな」
そう言ったのは、リンだった。この所かなり急上昇で彼の存在が大きくなっている。肥料の件も、大絶賛された。つまり、この付近の台地はアルカリ土壌で痩せていた。山切りの木もそうだが、大葉にしてもそういう土壌に育つ植物だ。それに対して、オオコウモリは、勿論雑食性の生き物だが、土壌を改良する役目も担って来たらしいのである。その結果として、猪や鹿など森林形成に伴い、増える事になる。オオコウモリとて食べるものが無くては滅びる。故にそのバランスを持って来たと言う事になる。全ては、そう言うサイクルにおいてここまで時を重ねて来たらしいと言う事だ。そして、コウタは検証した。もし、この115年の間に、AIなどが地球外基地から飛来した痕跡があるのならば、このドームを発見しない訳が無い。つまり・・飛来した可能性は低いのではないかと言う事だ。
その点に関しては、計測できる機器も、誰もドーム外に出た訳では無いから確かめる術も無かった。ただ、AIである以上、補給されるべき電源が無い限り活動する事は出来ない。このAIを今更説明するのもおかしいが、実際第1ドームには、そう言う画像的実証しかない訳だから、機能の事を説明するような資料や、どう言う人間に近い動きをするのかのDVDも存在しなかった。実際、おかしな話である。しかし、意図的に削除されていたのでは無いかと思われる。でなければ、AIこそ、その国の命運を左右する重大な基盤となっている。だからこそ、このAI自体の性質上丸秘事項なのであろう。確かにそうだなと議論も落ち着いた経緯があって、今まで管理システム自体を単にAIと表現されていた。実際、彼らにしても産業資料館にあるAIと言うか、これは所詮その名があろうとも端末なのだ。それが、人間とは似ても似つかぬ容姿であり、やはり機械的・・ロボットと認識出来る形態だった事に、少し安堵をしていた。何故ならば、人間そっくりのAIが、もし存在するのならば、日本の事だ。微に入り細に渡り、人間そっくりに再現するかも知れないと思ったからだ。