第二章その二 塔動く
「こんな施設があったんだな・・組織がここを探す意味合いも何となくだが、納得出来そうだ」
それは何を指すのかは、分からない。しかし、再び武器を手にしたシン達が、生体武器オオコウモリの本当の目的や実態も分からずして、これらの資料館の武器となるべきものを駆使し、殲滅しようと思うのであれば、反対するつもりだった。人間が愚かに自分の能力を道具によって過信し、文明を滅ぼし、絶滅危機まで追い込まれてしまった現在があるのでは無いか?それに、これを手に入れて、再び地球全土を征服でもしようと言うのか、また高分子発生装置の塔すらの事も分かっていないのにだ。
その日の夕刻になって、エライ首班、シリマツ官吏と、コウタ班長が、実働班のサテン、ウテンの護衛の中で、到着した。何故夕刻?それは、既にシン達が前線基地を構築している事を知っているからだ。そして、第2ドーム内が安全なら、その中で寝泊まりも可能だと言う判断もあった。
「良く見つけたね、シン班長」
「いえ・・偶然の産物に過ぎません・・ただ、第1ドーム周辺8キロ圏内に、何等かの建物があるとは記述されておりましたし、塔を発見した事で、ルートが現状のように密林なので、山切りの木だけでは、発見も困難でした」
「うん、そうだね。同じ高さの山切りの木が、5キロ以上圏内には、まばらとは言え、塔はかろうじて見つかったものの、このドームの立地では相当困難だっただろう。象の道も、東西以外に、数本まだあった事も分からなかったよ、ふふふ。リン君の鬼目だね・・これが功を奏したようだ」
「リンには驚かされる事ばかりです。とんでも無い能力を幾つも保持しておりますからね」
「あ・うん、そうだね」
エライ首班は、シリマツ官吏の言葉にそう頷いたが、超音波の幅広い周波数さえ聞き分ける能力は異色だ。そんな者が絶対に居ないとは言わないが、この時代の生き残った人類の中で、彼のような者が居た事も驚きであろう。多分、エライ首班は、その事を知らないと思う、軽く受け流した部分がそう思えるのだった。なので、今は言わないでおこうと思ったシン達だった。
多めに持って来た油壷で、一つの階からまず見たいと言う事で、エライ首班、シリマツ官吏を先頭にシン達が続いた。
驚きの声を発するエライ首班達だが、シン達は、勿論まだ十分に見ていないものの、奥行き、左右、5階層の構成だけは頭に入れていた。電気設備で勿論稼働する筈だが、電源が無い以上、全体を一望出来る環境には無い。恐らくライトもどこかにあるのだろうが、この構造は第1ドームと少し異にするようだ。また第1ドームでは、こんな収容の形も無かったものだったし、太陽光発電システムを備えている様子でも無さそうだと思っている所である。
この時、そのリンが、またもやこの者達を驚かせる一言を放ったのである。
「俺、思うんすよね。この周囲には枯れ葉や、腐葉土が一杯ある。俺は肥料を専門にやって来たから、第1ドームのように太陽光発電や、これも最近になってやっと聞こえて来た情報だけど、地下水を利用した温水や蒸気を利用したり、ポンプを使い高い場所から水を落下させ・・つまり滝を作り、タービンを回して水力発電を行っている現状より、殆ど無尽蔵に近いんすよ。塔には地下にマグマがあって、間欠泉等を利用した電力供給が出来るような仕組みらしいけど、その肥料を作る時に発酵熱が出るんす。それを利用したら、水蒸気による発電は出来ると思うんだけどね、地下熱の利用が無くてもいけそうな気がするんす」
「ちょっと・・待った。リン・・君は、今突然このシチュエーションの中で、驚く事をすらっと言ったけどさ」
コウタが即反応した。シン・ヤマイの眼も点になった。エライ首班、シリマツ官吏は少し先に行っているので、その発言は聞こえていない。




