第二章その二 塔動く
「そうか‥分かった。じゃあ、続きも言っておく。ヤマイの話で、そこもよりはっきりしたからさ。その高分子発生装置が、破壊される寸前のドームを救い、それを見届けた第1世代が、稼働している事を確かめ、そして世界が終わった事を悲観し、命を絶った。勿論、次の世代には託せる全てを託した。それがこの流れだ。それを総合すると、もはや日本以外に、生命が維持出来ている国は皆無かと思うんだ。そして、この30キロ圏内以外の地域には動物も居なかったが、その後、電磁パルスはもう発生していないから、動物達が繁殖している事だろう。尤も、ここの密度が一番高いと思う。そうするべく、生体武器による守護も、念には念を入れる日本人らしい、きめ細かさと悪い意味で、しつこい位のこだわりがあったんだと思う。誇って良いのか、逆に神経質過ぎて、第1世代の宗教設備を見ても、精神的に非常に弱い・・諸刃の剣だと俺は思うがね」
「それ・・同感・・くどいよな」
「あれ?ラン・・それは俺に文句を言っているのか?」
「え?いや・・そんな事は無い!あはは」
「こいつう・・あははは」
その場は、やはりシンだった。見事に場を締めたのだった。
何時塔のエネルギーが充満し、高分子エネルギーが発射されるのかは分からなかった。そして、この塔が第二ドームを開けるキーにはならない事になって来たようだ。そんな用途で創られていないと分かれば、やはり最初の原点通り、第2ドームを探せば良かったのだ。
今度は犬そりを使う事にもなって行くだろう。人間の足では、とても遠くまでの探索は限定され、広範囲を見回るのも無理だろうし、オオコウモリが襲ってくれば、容赦無くサイレント銃で反撃する。ただ、あの時のような無数の大群が襲って来たら別だが、そこまで今は人間に執着しなくても、十分な餌はもう与えてあるのだ。山切りの木や、大葉で作った毒団子も開発しているし、反撃・駆除手段ではあるが・・それは、こう言う生体に罪は無いが、人間が生み出した悪魔なのだ。それは自己責任で消去せねばならない。本来の生態系の自然には、もう二度と戻らない事は分かっているが、せめてもの罪滅ぼしに生き他の生き残った種が、繁殖できるように手助けをしたいと思った。
この間の2キロは緊張した。今は徒歩なのだから。オオコウモリが確かに追走し、上空に飛ぶ、何発か威嚇射撃をした。数頭が落ちて来る。しかし、どっと一斉に襲い掛かって来る事は無かった。電動車などもあるにはあるのだが、キャタピラにすると、電動車では灌木を倒しながら進める馬力が無いから、この自然のジャングルでは通用しないし、使えないだろうと言うのだ。そんな事すらも思い浮かばなかったのだ。コウタ班長の言葉をもっと聞いていれば、既に電子信号を拒絶するものは、無い筈なのだ。電動車は確かに使える選択肢もあるし、少しは防御にもなるだろう、だが、シンには分かっていた、そのような理由で使おうと言い出さなかったのは、彼の脳裏にまだ改良をしなければ無理だから早いと言う気があったからのようだ。この優秀な者達が、やはり今までの行動の中で、自分の体を使い、現実を体感しながら実働をすると言う意思が勝っていたのかも知れない。
今度は象の道を走って見ようと、シン、ラン、キョウ、ヤマイ、ショウの5人が徒歩で進む。ここには、やはり不思議な事に動物達は姿を現さないし、オオコウモリも襲って来ないのだ。当然道中には、13班、15班のメンバーが銃を構えてシン達を守護するべき、簡易の砦を築き固めていた。これは、ミッションだ、大きな探索なのである。マコトがしてやられたと苦笑いを浮かべていた。あるいは、これは自分達13班の主要メンバーを塔に固定すべき作戦だったのでは無いかと・・。
その第13班に、コウタが今度はやって来る。マコトは、おっと、と思った。エライ首班が迎える。