第二章 ドーム外編
「ん?何かおかしいかい?」
「いやいや・・続けて、コウタ」
シンが笑顔で促すと、
「そのAIなど当然今では無用の長物だし、ただのゴミに成り下がっている。既に100年前に電子信号が停止して以来、そんなものに大事な社会システムを任せていたのかと思えば、腹が立つんだよ。更に末端のCPであっても、我々がドーム内サーバに対してもそんな大事な情報を取り出すのには、何重にもブロックがかかっていてね。それで、塔の分析に大幅に時間を食ってしまった訳だ。そこに無性に腹が立っていてね・・我々のドームに近接する2つの構造物が有る事はとっくに分かっていた。しかし、未だに塔以外の構造物は発見されていない。君たち程優秀な実働班が居るのに、ストップ、またストップ・・会議の連続だ。勿論慎重になるのは当然だし、野生の動物の逆襲も、オオコウモリ生体による脅威も勿論分かっている。でも、それじゃあ、本当の解明にはほど遠いと歯ぎしりしている所さ」
成程・・少し不満をAIの事にかこつけてそっちへ苛立ちを転嫁させて言った訳だ。コウタが非常に頭脳明晰であるとシンは即座に感じていた。そして同調しながらヤマイが言う。
「確かに、なかなか進まないよね。象の道も見て来た。食事場所とミネラル補給と言うことを本能的に嗅ぎ分けている訳だ。オオコウモリもそうだと今は分かって来たけどね」
ヤマイが言うと、コウタ班長は、
「ヤマイ・・君はその道のエキスパートの一員だ。大葉も毒だと言われながら、薬や、オオコウモリの駆除薬にもなる事が知られて来た。人間の食料にもなる非常に有効な植物だ。しかし、オオコウモリの突然変異的個体は、一体どこに居るんだろうね」
いきなり、そっちへ話が飛ぶ?頭の回転に良さは分かるが、どこにその視点があるのか、少しシンには分からなかった。ヤマイは常に冷静だ。表情一つ変える事も無く、
「さあ・・それは分からないよ。仮に居たとして、同じ姿・大きさをしていて数万頭、数10万頭が居る中で、識別せよというのは無茶だよ。それに、その個体が何をした?今の所オオコウモリが空を制覇している以外には、殆ど分かっていないんだ、その生態についてはね。解剖はした。その組成的なものは分かったが、脳力、能力は解剖なんかじゃ分からない」
「はは・・それは確かに」
コウタ班長は、その答えが分かっていたように笑った。ヤマイの恐らく知識・能力を図ろうとしているのだろう、シンにはそれが分かった。自分を知り、相手を知る。どんな時代でもそこから、自分と一緒にやれそうな仲間を見つける。相性とは、つまりそう言う事になる。しかし、コウタ班長がヤマイと馬が合うなとこの瞬間思っていた事は、その表情からでは読み辛い。逆に今度はヤマイが聞く。
「さっきの話だけどさ、AIが管理していた文化において、何故そんな戦争が起きたんだ?俺は不思議に思っていた」
「尤もな質問だ。しかし、AIはそれこそ各国の思惑によって、人間が出来る事、出来ない事を根本的には設定していた。なので、その暴走を止められない程、人間が愚かだったと考えればどうだろうか?」
「それは・・つまり、AIが電磁パルス爆裂攻撃を起こしたと言う事になる」
「断定など出来ないし、そうだとは言い切れない。だけど、今ヤマイが言うように否定する事は逆に出来ないだろうと言う話だ」
「分かった・・俺は、その各国の意思の違いは当然あるし、AI性能の違いも含めて、高速通信時代、その通信によってAI同士が情報を共有し、制御出来ない部分で一致した部分があると思っていたんだよ」
「むう・・」




