塔までの道
シンが言う。一歩間違えば、サイレンサー銃で蜂の巣状態にされていたかも知れないし、逆にシンやヤマイに、キョウは撃たれていたかも知れない。やっと4人は四方網の中に入り、
「取り敢えずさ・・四方網の中までは襲っては来ない。オオコウモリも学習しているんだ。簡単に網を破れないって事をさ。だから、キョウ・・何でお前が単独でこんな所にやって来た?そんな訳の分からない指令があるもんかよ、言えよ」
ヤマイが言うと、シンやリンは微塵も油断をせず、厳しい眼だった。
「まあ・・お前達のその様子を見ていると、野外生活に慣れちまって、組織に戻る気は無い。だから組織を裏切った自分達に、追手が来たと思っている・・そう解釈しても良いか?」
「その通りだ。俺達はオオコウモリの襲撃から逃げ切った。全員無事だ。けど、今ドームに戻る気はない。それはエライ班長以下13人全員の総意だ」
「何で戻る気にならないのかの一端は、ちょびっとだけ分かる気がする。死んでも良いから行け行けだもんな・・俺もその特命で、一人でここまで来させられた。他にも別の特命メンバーが、幾人か候補も居るが、今回、俺がその1人を指名し、同行をと願ったが、2人での行動は、無理だった。シン、ヤマイ・・同じ上司さ・・分かるだろ?その辺は」
「あ・・おう、それはそう言う上司だし、俺達はそれが当たり前だと思ってやって来た」
「だろ?従わざるを得ないのが俺達下士官であり、今回は正直に言うよ。何か全然納得がいかなくてさあ」
「そうか・・あの上ならそう言うかも知れない。でもな、俺達もエライ班長と行動して分かったんだ。命令されなくても、俺達はまだやる事が一杯あるってな。どうする?俺達が裏切ったと報告しに帰るか?」
「じゃあ・・完全に野外生活に?」
「そうだ。今では殆ど不自由も無い。けど・・キョウ、お前の武器はすげえな。こんなもの俺達には持たしてもくれなかったぜ」
「そう言うお前達も、そんな武器を貰っていたんだな、だから生き延びた?」
「ぷ・・あははは・・おい、キョウって言うんだな、馬鹿を言っているんじゃねえよ。こんな武器なんぞ持たしても貰えなかった。俺達は、自分で手に入れたんだよ」
「え?盗んだ?」
「ぷ・・それこそお前も馬鹿を言っているんじゃねえよ。でも、その理由を言うつもりはねえ。もう一度確認しとくが、お前は本当に特命を受けて、俺達の無事を確認しに来たんだな?」
「ああ・・間違い無い。それもこんな危ない野外行動を一人でだ。四方網を15班のガランが滞在時間もオオコウモリに襲撃されて撤退するまでの短い時間だったけど、何か修復されたような気がするって言う話で、それを確かめに来たんだよ」
「ガラン!」
少しシンが大きな声を出した。
「うお・・何だよ、大きな声を出してさ」
キョウが少し驚く。
「ガランも、とうとう15班の実動班に指名されたんだな?そうか、ガランがあの状況で退避する前に修復の形跡を見つけたんだな?」
「そうだ・・お前達もそれを知っていたんだな?お前達も無数のオオコウモリに襲われたが、14班、15班も襲われたのを見ていたって言う訳か」
「そうだ、見ていた。でも、それはそうじゃないのか?どうしようも無いんだから。でも14班、15班は怪我をしたかも知れないけど、逃げ戻った。俺達なんてとっくに死んだと思われていたんじゃねえのか?」