塔までの道
ヤマイが言うと、その通りだった。2匹のボス犬は、4頭のオオコウモリが軽々と空中に掴み上げ、塒まで運ぶようだ。腹を空かせた仲間達が、そこで食するに違いない。オオコウモリは、ずっとこのチームをマークしているようだ。
「解体なんてして見ろ、その途中で襲って来るぞ、間違い無く・・な?カンジ、食いたくても今は我慢しろ・・ははは」
「別に食いたくて言っているんじゃねえわ・・でも、状況は良く分かった」
カンジも、それは理解した上で言っているようだ。しかし、彼らはまだまだ生体武器であるオオコウモリの本当の恐ろしさを、この時点では分かって居なかった。また、理解せよと言うレベルの対象でも無いのだ。科学が究極までは行かぬだろうが、行き着く先まで走り抜き、そして辿りついた戦争武器・・これが日本の開発したオオコウモリなのである。圧倒的数で空を支配するだけでは勿論無いだろう。
この日は、やはり監視小屋で一晩を明かした。オオコウモリは今の所、食を与えてくれる動物・・それを、やや好意的に見ているのかも知れない。何故なら大空には常にエライ班を監視するようにオオコウモリが数頭飛び回っているからだ。その頭脳がどのように開発・進化したのかは分からないが、突発的変異を誘発する個体があると言う話だけは、この夜もエライ班長が話していた。そして、シン達も特命を受けた時と同じ言葉、座して死ぬ訳にはいかない。だから、ドーム外で活動すべき必然性の意味であった。
「そうか・・ヤマイ君は出て行ったのか・・忠告を無視して・・」
特命の上司、黒服の一人が言った。
「は・・恐らくそうするであろう事を承知はしておりましたが・・」
「ふふ・・くく・・。それを見越して念押しをしたのか?どうなるか分かっているだろうな?と・」
「はい」
「だが、特進路の事は誰にも知られてはならない。彼がもし生きていたら、どうするかは君が決めてくれ」
「は・・」
冷たくその黒服は言った。短く返事をし、頭を下げたその者は、ヤマイ程の男がそう簡単に死にはしないだろうと思ったし、実はシンの上司でもあったのである。シンの身体能力の高さと記憶力は、潜在的にエライ班12名も優れた者達ではあるが、頭抜けていたと思っている。その2人が合流したならば、ひょっとしたら生きているかも知れないなと思った。ヤマイが生きていたらどうするか・・その処遇が一任されたものと見て、彼は1人の者を呼んでいた。
「蔵内君=名前が強一なので、通称キョウ・・我が特命班の切り札である君を、野外活動に指名する、もう君しか居ない」
「はい」
かなり理知的な顔をしていて、相当の身体能力をこの蔵内も持っている事は一目で分かる。




