最終章 シン達世代の終焉
唯一文明の利器をWCIは残してくれた。ランが中心に、月、火星、木星、土星、あらゆる太陽系惑星にも人類が移住できる僅かな可能性を求めて探索を続けているが、もはや、それは不可能だと言う結論に至っていた。
そのランが、久しぶりにO大陸に居を移したシンとアマンの住居を訪ねていた。MFF機に乗ってだった。ケンシンは、この機に自分はもはや何もできないと組織もあるが、機能もしていない事から、自分はもともとこっちだからと、僅かにO大陸に持ち込んだ機材で、映像系の研究と自分の引退宣言と研究所を立ち上げ、組織から離れた。
彼等には、もう自由が与えられているのだ。組織とは雖も、もはやそれが機能する事は無いだろう。死ぬ時はもう地球上にて、その運命を受動する、一緒だと彼等は誓ったのだ。それは怖く等は全く無かった。ここまでの生の中で、いつ死んでもおかしく無かった自分達が、ここまでの事をやって来たのだ。生きる限り精一杯その生を満喫し、このまま生きて行くだろう。自分達のすぐ未来が、今度こそ、どんなに知恵を出し合おうとも、どうしようも無い事を残った数百人しか居なかった人類だ。シン達周囲の幹部達もかなり失った。その残り幹部達でここまでどれだけ議論を重ねただろうか。人間等、たががちっぽけな生命体に過ぎないのだと改めて思い知らされる。
この宇宙の中で、その大脳を発達させて、自然に挑戦しようとしても、抗える術等は無かった。コウタ、キョウもそうだ。彼らは研究するのが自分の使命と、この年になってから思ったよと、逆に開き直って生き生きとした顔をして独立して行ったのだ。エイジもそうだ。MFF一機で月にスタッフを引き連れて移住し、ここだけは充実させたいと、色んな研究所も立ち上げ、そこで幹部を養成するつもりだと言う。しかし、月から彼が戻れる保証は、もはやない。地球も月も、この大事変とは母星太陽の、ほんの小さなゲップのような微細な動きによっても、滅びる運命だと言う事も分かっていたからだ。母星の地球が果たして壊滅し、100年、200年後・・いや数千年、数万年後に再び、3度、人類が住める星になれるのか、その時には自分達の命もある筈も無い。そんな事等もう全員が分かっている話なのだから。だからこそ、楽しく過ごそう。小規模地震は多発していた。だが、彼らはどこかに移りつつも、大葉を移植し、擬ガジュマルの木で命を繋ぎ、何とか生きている。来たり来る終焉の時まで、もう自分達が自由で楽しく生きる為に
「ははは」
和やかな笑い声が聞こえる。シン達のそう大きくない住居は、やはりドーム形式であり、これが一番理想形なんだよと、笑い合っている。『銀』は既に犬一族の長となり、もう5代以上の系譜の頂点に立つが、殆ど今はシン達の傍でまどろんでいる。もう大地を依然のように駆け回る事は無いが、穏やかな顔付きで、その彼等を見つめている。ランは今でも、耳ピアスの赤い髪だ。そのスタイルも殆ど変化も無いし、相変わらずユニークな発想ばかりしてシン達を笑わせているのだ。
そして、会話の中には、これまでと変わらぬ前向きな言葉が飛び交っていた。




