決別 12名の戦士達
もう下士官は、何も言わなかった。どんなに身体能力を保持していても、あの圧倒的な数のオオコウモリだ。後続実働班が、エライ班の攻撃を受けた何100分の1であっても、ほうほうの体で逃げ帰ったのである。例え、探している武器を手にしても、尽きぬ事の無い数のオオコウモリを寄せ付けない方法は、大きな破裂音をさせて、近寄らせない事であろう。それが最大の防御だと思うのであった。
果たしてそうだろうか?こっちのエライチームでは、その事も含めて、爆弾の製造は、この野外地であるから勿論出来ないのだが、火薬をほぐして、木や石の中に詰めて爆発射させる事はできると、そのドーム内で話題にあったショウが言う。又カーバイドに詳しいカンジも、簡易的なもので良ければそれも作れると提案したが、シリマツ官吏が首を振った。
「いや、駄目だね。それが出来ても実際カーバイドの定期爆発音は、最初こそ効果を発揮したが、オオコウモリは非常に賢い、それが自分達の身に危険が無いと分かって、襲撃をして来た。そして嫌悪臭も、無数の群れになれば消える。大きな群れで襲えば、関係無い事も知っている。確かに爆弾については、殺傷力も高いが、彼らは途方もない大群だ。数100頭を殺されようが、なりふりは構うまい、躊躇なく襲って来るだろう。それも昼夜関係無くだ・・。奴らにはそれだけの知能があるのだよ、ここまで見て来たが、私はそう考えている。だから、それは愚策になってしまうと思う」
シンも頷いた。
「やっぱり山切りの木を縫うように、我々の取るべき行動は、レジスタント的に敵に見つからないようにする。当面の敵は、猪でしょうかね」
「そうだね、熊が出ても数は少ないだろうし、今まで余り多くを見かけた事も無い。野犬も心配したが、当面危険な獣類はその2種だろう。だが、野犬も非常に少なかったね・・不思議な事だ。飼い犬が野犬化して、大きな群れを作っていると思ったんだがねえ・・」
シリマツ官吏の不思議だと言う部分は、そのあたりだった。オオコウモリの圧がそれだけ高いのだろうとシンは思った。今一度確認するが、彼らはたっぷりある資料の中で、知識量が相当あるのだ。ただ、実際に現場で見たものと確認したものとにギャップがあって、それをすり合わせするしか無かった。そこから始めてやっと現実を認識し、真実が語られるのである。シン達がサテン・ウテンと出会った時、電磁パルスの事は既に聞いているが、それを研究する部署があると言った。組織図にはその部署がどこなのか明確に示されてはいなかった。彼らが電脳理機を使う・・つまりレーザ-光による武器は、この時すでに世界では当たり前のものであったのだ。それが数100年前の武器に先祖返りするような武具が、この時代で使う事になるとは、誰が想像出来ようか。ぽつんと脈路無く、マコト副長が言う。余り自分から指図をする事も無く、非常に生真面目な部分がある彼は、丁度メンバー達の兄貴分的な役目に徹していて、見事にチームをまとめていた。人望は非常に高い。
「100年前、確かに核戦争が停止され、数100年は続くだろうと言う人工衛星同士による、宇宙戦争が起こった。電磁パルス攻撃で各国は、全ての電子制御機器をまず破壊し、機能を停止させた。この時代にはもう非文明的人類は殆ど居なくて、人々は文明の恩恵にすがり生活をしていた。そう聞いているよな?」
「え・・ええ。どうして、その話を?」
「今、俺達がこうしてかりそめにも野外で生活し、生きている。つまり、100年前文明が突然終わった・・しかし、それを捨てて野外で生き延びた人達は、もう居ないのかな?と思ってさ」
「その時代の子孫が、この野外に居るのでは?と言う事ですか?」