第21章 脅威の相手
「どうした?補佐。呆気に取られたような顔だな」
「いやいや・・今の会話を聞いているだけで、確かに首班の段取りと言うか瞬足の手配には今更驚かないが、そこまで考えていたとはな」
しかし、シンは、
「いや、俺じゃない。動いたのは副首班さ。全て一連の事は任せてある。俺は各部署を巡回し、担当部署の者達と情報を共有し、このM国地下だからこそやれる利便性を確保しただけだ。この移動は俺が指示した。いち早くな・・何かそうすべきものがあるような気がしたからだし、それまでにこれだけ長い時間を掛けてM国地下の分析は行って来た。安全性と言う点では確かに問題もあるが、しかし、これだけ厳重な基地は他には無い。動物群には申し訳無いが、日本が即攻撃される事は取りあえず回避出来るのかなと思った。放置の状態だ。救済出来る手段も無いがな・・」
「根拠は・・いや、聞かないよ。それより主査・・首班を呼んだ、その成果を披露してくれよ」
コウタは、ここはすんなり引き下がった。
「はい、もはや言葉は不要でしょう。ご覧ください」
アマンが示す視線の先に、何とT国猿人が居たのである。
「え・・これは?」
「はい、通常生命を得ると言うのは、誕生から成長までの事を言います。従って、当然赤ん坊の状態から成長するに従って、筋肉とか、発達すべき各部位が必要となる訳です。しかし、この変異細胞とはそもそも何なのか、それを極論すれば、全く同じ部位、欠損したその組織をそっくり再現出来ると言う事になります。T猿人はこのように再現出来た訳です」
「何と・・それでは、コピーそのものが人にも出来ると言う事か?」
「はい・・生命の尊厳とか、又その源まで追求する事は必要なのかも知れません。しかし、前にもこの論についてはやりとりもしましたし、結論が出る類のものでは御座いません。そもそも生命とは何なのかと答えを出せる者など居ないからです。しかし、この考えを追求した者が居るとするならば、それこそ和良博士、和良司令官の血族なのでしょう」
「そうか・・じゃあ、和良司令官同位体と言う俺はそう呼ぶが、その対象こそは、今主査が再現したこのT猿人そのものと違わないと言うんだな?」
ここでコウタが言う。
「いや・・恐らくその原理・根本的なものは違うと思う。この変異細胞の本当の活用については、誰も知らなかったんだよ。研究テーマも、そもそもその原点から違うと俺は思った」
「室長、お前は入室した時から難しい顔をして黙っているよな?何かあるなら喋れよ」
シンが顔を今度はコウタに向けた。




