第21章 脅威の相手
「勿論思考回路は繋がっているし、運動機能も繋がっている。それは補助的な役割を担うと理解してくれ。それで、健康年齢、稼働脳年齢を伸ばしていたのさ。300歳までな。だが、それの限界を迎えるのも承知していた。だから瀬戸内海海洋研究所内での完全培養体の間近まで迫っていた。そこの経緯は今までと変化は無い。周辺海域の魚介類も変異細胞の一つだ。ただし、アマン主査が受け継いでいる、旧日本政府が行っていた研究の細胞とは根本的に違う、別種だ。こちらは500年前からやって来ていた粘菌の集大成だった。完成すれば、それこそ地球の生態系をもひっくり返す大研究結果だっただろうな」
「危なかったって事か・・やっぱり」
「いや・・実はそこからだ。仕込んでいるといきなり言った言葉にその理由がある。あのように、色んな可能性を四方八方巡らす人間だ。つまり、言っただろ?和良司令官とは俺達が出会った人物は虚像に過ぎないって事だ。死んだ人間・・シリマツ官吏と同じさ。祖父・和良博士の培養体だった訳だ」
「え・・えええっつ!」
どこまで驚かせるのだろう、彼らは次々と体中にパンチを浴びせられるボクサーのようだ。精神的にも相当なショックを受け続けているのだ。
「冷凍保存技術は相当進んでいて、和良博士の祖父、父と共に、地下奥深くに保存されていた。和良司令官は、この2体を自分の媒体とし、一方はレンジ、もう一方はもしやの時の為に、ある場所に移したんだ。その一体とは勿論自分自身となる。四方八方の培養変異粘菌細胞は、父と合体し、その知能と知識と共に、生まれ変わったんだよ」
「・・ど・・どこに居る?」
恐る恐るキョウが聞く。
「南極さ・・130年後の自分が生まれ変わった姿で、誕生している。それが今出現したんだよ。ここまで言い切れる根拠こそは、シリマツ官吏の脳内に、もしもの時の場合を想定して保存されていたAICチップ内にあった。だが、これも俺との出会いがもう2年、3年遅ければ、瀬戸内海洋研究所内のこちらも完全培養体は、その矛盾を修正され、完成していた筈だ。それを悔やんでいたし、もしも破壊されずに残った時までは想定もしていなかっただろう。その記憶媒体は南極の自分自身に既に無線ケーブルによって移行されているし、俺達がシリマツ官吏を追い詰めねば、それも開示される事は無かったはずだ。誤算は確かにあった。自爆するはずのシリマツ官吏は、腕の自爆装置を吹っ飛ばされ残った。しかし、脳内まで俺達が検査する筈も無かったんだよ、あの異常な混乱を見るまではな」
「そう・・だったのか・・俺達は、とんでも無い化け物を再び見る訳か・・」
「そうだ・・もう分かっただろう?再生細胞によって、不老不死の究極生命体が復活した。そして、今俺達を監視している。俺達がδMRで監視しているのと同様にな」
彼らは、ようやく事の重大さは認識していたが、それ以上の驚愕の事実を突きつけられたのだった。




