決別 12名の戦士達
「その1頭に襲われるたとしても、他のオオコウモリは攻撃出来ないんだよな。胴体が大きいから対象個体を覆いつくしてしまうんだ。また、その狂暴そうな顔に比較して、意外にも口は小さい。鹿を2頭で持ちあげたような連携はあっても、森林内では1頭対1人だ」
「ああ・・獲物を持ちあげる際に右足、左足を双方が伸ばし、翼が重ならなようにし、『V字型』になったよな、そして、その時は片方の翼だけ使い飛行した。驚くよ、その知能にさ」
皆が目撃しているから、その連携にも驚いていたのだった。
「ああ・・それもだけど、つまり、その口で攻撃を受けても、いきなり致命傷になる事は余り無いかなと思う。だからこそ、全滅したと思われる実動部隊が戻って来た事もあるだろう。噛まれても毒も無かったようだしね。それにオオコウモリの匂いは、猪以外の獣を遠ざけるような気もするんだ。独特の匂いかな、それは。幸いにもオオコウモリが出現した場所は、猪もそう多く出撃していない事もあった。また、猪が人間と言う動物を余り認識していない事もあるし、食べ物も沢山あるからさ、敢えて襲って来る事も無いんだと思う。だって、良く太っているだろう?周辺の猪の個体はさ」
「いや・・そんなに観察する余裕等は無かった」
「幸いにも、猪に俺達は1回遭遇して、かろうじて撃退もしたが、そんなに急に襲われる事は無かった。本来は臆病な動物なんだなと思うんだよね。で・・猪の話に脱線してしまい、話が戻ったが、つまりオオコウモリに噛まれて大怪我をしたと言っても、噛み傷程度だと思うんだよね、それ程致命傷を受ける事は無かったと筈だ」
シリマツ官吏が感心した。
「見事な分析だね、シン君。君の実動経験は、我々の認識能力より数段高いと思われる。それなら、同じドーム内で育った者達であり、そして同じ実動部隊の者達なんだだ。彼らが助かって良かったと思うよ。少しはこちらも心が痛まなくなるし、今回の作戦は成功したと思う。これで、当面、実動部隊は又派遣されないだろう。これで、ゆっくりここを調査出来るね」
「はい!」
チーム全員が本当に良くまとまっている。行動にも一貫性があるし、ここへ来てエライ班長がやはりその道の専門家でもある事が分かって来て、分析調査と言う感じになって来た。
こうして実動班は、この広大な遺跡跡を再び、三度丹念に調査開始をするのであった。そうする事約2ヶ月。とうとう、シン達はあるものを発見したのであった。
「岩山から延びる幾つかの坑道らしき跡に大量の人骨が発見されました」
それは墓場か或いは集団自殺したのだろうか、夥しい人骨が散乱していた。少なくても数10年・・或いは100年以上経っているのかも知れない。
「想像するに、恐らく集団自殺だろうと思う」
「でも・・何で?」
シリマツ官吏がここは言う。
「君達のカリキュラムには無かったが、カリキュラムそのものの中にそれはある。私はその洗脳と言う指導員の資格も持っている。簡単に言うと、君達に死を恐れない、勇敢に闘えなど意識操作を繰り返し行う事によって、人間と言うのは実に簡単と言えば、語弊も生じるが、それを忠実に従う行動をするのだよ。だって、この野外に出て君達は野生の動物、植物の動きやその脅威を目の当たりにして、エライ班長から最初に死とは痛み、恐怖、苦しみを伴うと教えて貰ったように、また今も後続の新実動班の安否を心配したりする感情部分の事だ・・つまり、誘導されていたのだよ、プログラムに沿って。しかし、実動とは人間本来が持つ野生的な感性が必要になるし、決してドーム内では味わえない有り得ない事の連続だ。だってそうだろう?こんな我々の行動を、カリキュラムで教えて貰ったかい?全部自分達が考え、意見を出し合い今行動をしているんだ。つまり、宗教とはある一種の催眠術と同じ、人を一定方向に導くんだよ。だから、恐らく逆算してドーム外の世界では電気信号的なものが使えない。又オオコウモリが周囲に跋扈し、自分達の生きる道が閉ざされた。そして100年前後、死を選択したのだろうと想像する」