決別 12名の戦士達
「ああ・・あれは、ケンが偽装を施しているよ。大葉で覆われ、今は網すらも殆ど見えない。だから鹿が入ったんだろう?」
「あ・そうか。凄く自然な状態になって居りますよね・・成程」
シンは、そう言う細かい事も、このチームはやっているのだと嬉しくなった。シリマツ官吏は、
「シン君、運動神経の優れた君に少し頼みたいんだが・・」
「え・・あ、はい。何でしょう」
シンは、少しきょとんとしてシリマツを見る。
「いやいや・・危険な事を頼む訳では無い。後任の実動班を少し驚かせて欲しいと思ってね、殆ど今は使っていないが、オオコウモリの嫌悪音波を鳴らして欲しい」
シンはすぐその意図を理解した。
「了解です!実動班に今邪魔をされたくないですからね、盛大にやりますよ!」
オオコウモリが東から西に移動する事は知っている。大群が移動しているが、岩山を根城にする一群は、100や200頭では無かった。一斉に飛び立てば、シン達を襲った時と同じ状態になるのだ。きっと肝を潰して実働班は、又ドームに引き返すだろう。そう言う作戦だった。
ひゅ・・ひゅひゅひゅ・・シンは走りながらオオコウモリの塒付近で笛を鳴らした。音波発生装置と言っても、笛のようなものだ。原理は凄く簡単なものである。しかし、効果はあった。
ぎゃ・・ぎゃぎゃぎゃ・・オオコウモリは一斉に飛び上がり、四方網周辺を丹念に探している実動班の上空に、大群で姿を現す。
「退却!退却だ!全力で走れっ!」
実動部隊2つの班、約30名に切れる者達は一斉に走りだす。興奮したオオコウモリは勿論彼らを襲う。ライケンを振りまわしているし、大葉で身を隠している者も居る。シン達に習ったものだ。しかし、数で圧倒するオオコウモリは、興奮すれば、殆どそんな防御は通用しない。恐らく何名かが、大怪我をしただろう。こうして、ほうほうの体で実動班は逃げ帰ったのである。作戦成功だ・・だが、・・実際の所何が成功したのかは知らないが、
「でもさ、大怪我をしたと言うのは同じドームの者・・少し心配だな」
優しい気持ちは、恐らくこのチームの誰もが持っているのだろう。随所にそんな言葉も出る。しかし、シンは言う。
「オオコウモリってさ、他の猪や、肉食獣って出会っても居ないから分からないけどさ。翼長が2M近くあるだろ?」
「え・・うん、で?何の話なん?シン」
きょとんとして聞く、チームの面々。