第19章 進むべき方向
「とにかく、M国でもやったような観測は必要ですが、何故今までこの対象がHITしなかったのでしょう?εMRは深海1万メートルまで潜水可能ですし、深海用探索機は今までも稼働していましたよね」
「それは・・私も分かりません。ただ、ここにも和良無線光ケーブル網の今まで見えなかった弱点があるような気もします。ただ、今の私には判断出来かねます」
ここまでこの優秀な技術者?また発明家とも言えるケンシンをすら悩ますものとは・・そして、それこそが宇宙とこの南極にて全く違う出来事をすら繋ぎ合わせるような事になるのだろうか、彼らは最初から不明な事に向かって来た。故に、今更その不明なものに対して動揺もしないが、ここまで全く無かった情報に戸惑っていた。だから、シンが直接現地に行くと言う発想は、むしろ正当なものにも思えるのだった。だが・・首班は組織の最重要人物。ここまで出来るだけ実働の先頭に立たないようにしていた筈だが・・
アマンは意を決し、シンの部屋に・・ところが・・
「あの・・どうされたのですか?」
シンが、ぼんやりと何か瞑想している様子だったのだ。こう言う事は珍しい。
「あ・・主査。いや、何にも頭の中に入れないで、最近時折ぼおっとしようと思っていてね、そしたら、頭の中は一端キャンセルされて、俺の判断がどうだったかなんて考え直す事もあるんだよ」
「まあ・・それでは、お邪魔したようです。私はこれで」
「あ・・いや。大体想像はつくよ、南極に行くと言う話をマイカから聞いたんだろう」
「あ・・いえ・・その」
アマンは口ごもったが、
「いやいや、良い、良い。自分でも不思議なんだよ。リンもそうだけど、ずっと心の奥底で行けと言われている気がするんだ。これを他の者に言っても、恐らく理解して貰えない感覚だと思う。少し前にM国で再生鉱物起源因子、電磁波ソナー因子等、当時のこれが最先端研究であると思うが、何となくそう言う事が分かって来たものの、それらを証明するものは何もない。しかし、リンがやられた恐らく耳目の奥にある鼓膜及び周辺の骨粉砕については、相当のダメージを受けた筈なんだ。でも、リンは驚くべき回復を見せた。それは現医学的には当時のような医療技術を望んでも得られない。又そんな器具を開発出来る能力も無いから、旧式の医学器具では分からなかったものだと思うんだよね」
「つまり、リン班長は再生鉱物起源因子によって回復されたと言うのですね?」
「ああ・・だって、俺達第14班はほぼ全員、数えればキリが無い程怪我なんてしている。しかし、確かに再生医療と言うのはこの時代にもあるが、そんなものでは無い。俺達は自然治癒に近い位殆ど治療を要しなかった。それを特異体質だなんて思っていたからね」
「・・驚く事を実に淡々と言われますね。先程部長と話をしておりましたが、実に今回の件についてはεMRと言う画期的な深海探索機を開発されながら、イオペタス観測機器として使用出来るのでは?と言う周囲の意見に、淡々とした口調で否定されました。何か、そこに全く別次元である話ながら、共通の感覚を私は持ちました」
「はっはっは。主査・・君も恐らくそっちのソナーを持っているんだよ」
「まあ・・うふふ」
2人は笑った。何故か、心が落ち着くのだった。これがシンとアマンの現関係を象徴しているようだ。




