決別 12名の戦士達
「使えるかな・・これ。護身用に持っとくか」
ランがそれを手に取ると、他の者も使えそうなものを物色する。この際だ、皿やら壺にしても十分に食事の際の役に立つ。彼らはそれを中央広場に持ち込むのであった。
そして、残り3本をくまなく見た。他4か所と相違なく変哲の無い道だった。第2番目の左右の通路と、一本目の階段上部が今後の探索主目的と決め、山切りの木まで22名が交代で戻り、周囲を観察。
すると、鹿が入っていたとの情報が入る。やはり、補修した網の効果はてきめんに出て来た。鹿は、一頭ずつしとめて、オオコウモリだけでは味気ないので、食糧にする事に決定。つまり、ドーム内よりいち早く彼らは食料にする・・それに着手したのであった。解体なども既に手慣れたものだった。バーチャル映像と言うのがあって、画面を見ながら、実際に魚や動物等の解体等もカリキュラムで、生物班や、この特別班メンバーは習得しているからだ。ランは特に器用で、短刀が結構役だったのだった。
「使えるな、これ・・」
保存状態も良く、十分にその剣や短刀は機能するのであった。そして装具の皿や、壺なども役だった。水も小滝でまかなえるようになったし、壺を使う事で煮炊きも出来るから、煮沸して飲む事も、豊富な森林よりの恵みで、味付けも出来たのである。彼らは既に人間本来がとっくに失っていた野生感を取り戻すかのように、生き生きとして動き回るのだった・・
そして、第1道と名付けた。そこの階段を登り、外に出られる痕跡を探す。それはすぐに見つかった。頑丈な石の扉で創られており、初めてここが大きな岩山内だと気付くのはすぐの事だった。しかし・・居たのである。オオコウモリの大群がすぐ眼の前のここに・・慌てて観察に行って来たリンが、戻って来て報告をする。
「そうか・・ここは巨大な岩山だったのか。そして、唯一岩山から入れる穴を基礎に、通路を構築して行ったのだな・・すると、もしかしたら、ここは鉱山の跡なのかも知れない。それなら説明もつく」
「鉱山?」
「ああ・・昔は一杯鉱山などがあってね、こう言う具合に坑道を掘っていたのだよ。ここが何の鉱山だったのかは分からないが、既に掘り尽くした跡だろう。そこに宗教の団体が移り住んだのかも知れない。時代考証的に、どう見ても宗教儀式的な祭壇と鉱山は結びつかないからね。と・・なると、そんなに数千年も前の事では無い。300年、500年前だろうと思う。人力だけで掘ったにしては、きちんと穴の幅、高さも一定していたからね」
エライ班長の事は良く知らなかったが、こう言う方面に詳しそうだ。あ・・シンは思った。それならエライ班長が今回リーダーとして指名された経緯が分かるからだ。
そこを見るならば、やはり何かあると考えるのが自然だ。シンは思った。やはり自分達がここを攻略せねばならないと・・。
今度は交代で、四方網の周辺と、岩山付近の探索とオオコウモリに注意を払いながら、広範囲の探索となった。岩山からはドームの巨大な姿も見えた。改めてこんな所に生まれてからずっと住んでいたのかと思った。親も知らず、兄弟も知らない。物心ついた時にはスクールで授業を受けていた。全員ほぼそう言う境遇であったから、敢えて疑問にも思わなかった。そう、死ぬ事すら怖いとは教えられなかったし、大人になって配属が決まるので、自分の得意分野のスキルをひたすら磨いたのだった。しかし、エライ班長が現れてから変化した。死ぬ事は痛いし、苦しいし、怖い事なのだと・・初めてそんな言葉を聞いて少し考えが変わった。そして特命の任務こそ、光栄なものだと思い、一生懸命やって来た。それがどうだ・・エライ班長、シリマツ官吏の言う通り、自分達は捨て駒、切り捨てだったでは無いか。シンは、がっかりした。皆もだ。これが生きて来た証、自分達の任務なら何と虚しいものかと・・。