第一章 進の日常
シンとランは、心許せる仲間なのだろう。愉快に杯を重ね合うのだった。しかし、不思議に彼ら周囲には全く人影も無く、不気味に静かだった。ここがどう言う場所なのか、彼らすらも情報を知り得る環境下に無い事だけはどうやら確かだった。
それからあっと言う間に1週間が経った。シンがある部署に呼び出されている。と言っても、その部署に到着するまでは、厳重に2人の黒服の男達にがっしりと両脇を抑えられ、外すら見えない車に乗せられ、目隠しをさえされている。そこまでやる必要があるのかと言うものものしさだった。しかし、企画情報室に配属された時もそうだったし、自分の処遇を決めるのは、解任も自己退任も組織・・そう、組織と言う言葉が最もふさわしい。その組織の上が決める事だった。シンはこの地区で生まれ、両親も知らずに育ち、学力・能力毎に区分される学校に通い、そこで学び、訓練を受け、この組織に配属された訳である。自分の出生も知らない?しかし、それは、この組織内では常識であった。その理由を彼らが疑問に思う事も無く、必要以外の情報・知識を求める事も、得られる事も無かった。
「さあ、ついた。ここに座れ」
シンを連れて来た黒服が退出すると、シンを案内した、組織の者が目隠しを外した。
「ここは・・?」
シンが顔を上げると、目の前に3人の組織の上の人物らしき者が立っていた。彼らがシンの前に来て対面に座ると、すぐ・・
「聖君、私は、連帯部長、度会邑正だ。隣の二人の紹介もしよう、右隣が連帯部長補佐、陣辰君、左が、連帯部主査、豪保君だ。さて、いきなり質問だが、配属を拒否した事は聞いている。本音かね?」
「自分の企画は所属部署の役務として、この半年で得た情報と、ここまでのスキルを込めて提出したものです。しかし、殆ど読みもせず、若山室長が、日頃の私の些細なミスや、確かに他の者との会話も少なく、孤立気味ではありましたが、それも不要な言葉のやりとりで彼らに私の情報を得られないようにしたものです」