第16章 危ない!
部屋を変えたのは、そこは外からの遮断が可能な部屋であり、幹部が滞在する為に設けたものだった。そして、4部屋直属に研究室が併設されている。
4人はそこへそれぞれが距離を開けて広いテーブルに座った。各自のテーブル前にはパソコンの端末が置いてある。何時でも壁面にあるスクリーンに必要なデータ、画像が展開出来るのだ。今この場において、色彩がこのシン達の行動の中には、殆ど存在しなかった。それはむしろ彼等にとって色彩とは、砂状の台地と紺碧の空、時々見える雲・・殆どモノトーンの世界だったからである。むしろ、そう言う色彩を必要とはしない現状であり、世界だった。そこで、太古である地球上の世界ではありふれた景色であっても、彼らはもうとっくにそんな世界は過去であり、そこで感激するようなものでは無い事を知っている。僅かに旧ドームの中では、景色は存在したが、シン達実働班が経験したのは、暗い坑道と、陽を通さぬ森林、赤茶けた台地が主だった。
初めて遭遇したのが瀬戸内海=湖の多様な生物群と緑かかったその海水であった。
彼らは常に、最先端の未来に生きて、その刻々と変化する日常に対面しているのだ。
ケンシンはすぐ言った。
「さて、私はストレートな人間ですから、今回のMRに代わる素材、機種を開発せよと言われたら、無理だと言ったでしょうし、たまたま私が興味のあったMR素材は、ウテン、サテン班長の工法による地下通信路素材が、電磁パルス爆裂後にても100年以上持ち応えたものと同じだったと言う事にあります。即ち、私が常に申し上げているように、ある物を応用する。それこそ応用科学と言うものになるのでしょうが、私の場合、科学では無く、いかに自分の思いたる部分とマッチングさせるかに時間を割いて来ました。それは無関係に見えても、どこかで応用的なイメージは膨らんで来るものなのですね。そう言う中で、ご存じのように、旧国家で長年多額の経費を掛けてお粗末なリニアカーが開通しましたが、その膨大な開発と経費は、殆ど無用の長物に終わりました。何故か?それこそ、本当にそれを創始した者が受け継ぐべき理念や、技術を次世代に継承しなかったからです。単なる事業であるから、崇高なる開発理念が何時の間にか、国策の事業に成り下がる事は、ままあった時代です。私は、その応用をまず自分が画像にて再現しようとしました。つまり脳内でこうしよう、ああしようと思うものを、得意分野で自在に動かす事。それが私の愚直なやり方なのです。お恥ずかしい」
「いやいや・・とんでも無いですよ。何時も思うけど、それは謙遜に聞こえます」
シンとダンは言うが、
「いえ、そう言われると余計に恥ずかしいのです。既に私如きが考える工法は、21世紀の終り頃にはあって、私はその埋もれた論文を何度も読み直し、そして趣味のようにやって来た結果なのです。つまり、素材さえあれば、無線光ケーブルとは光の波、その波こそが磁力線とも深く関与する事だったのです。MRは必然的に生まれたものです。そして、計器は、いかに旧型とは言え、先端科学を誇った、鎖国を選択した日本だからこそ、また量子コンピュータは、その時代のネットに対するハッカーを極端に駆除しました。よって、その操作にて国家的傍受、情報盗聴、収集、ウイルス的破壊活動はほぼ絶滅したのです。国家間の所謂疑心暗鬼が、鎖国を真っ先に選択した日本のように、これは脅威と映ったでしょう。しかし、今これを言う事では無いので、ここまでにしておきますが、つまり、画像をご覧ください。私は、その軌跡をこうしてデータで持っている事により、対処も出来るだけ早いのかも知れません。それは引き出しとも言えます」
「ええ・・」
困惑の中で、やはりシンもダンも、ケンシンがこの場で伝えたい事を聞かねばならないと強く思った。




