第16章 危ない!
「いえ、リン班長であってもその音域までは不可能です。つまり、今回はこの音域の超音波を受信した為では無いでしょうか。リン班長は恐らく50キロヘルツからの波長が聞こえる特異な耳をお持ちです。何故それが可能かと言う事は、もう少し室長や専門家にお聞き願います。ただ、蝙蝠が互いに集団で移動したり行動する中で、互いの音源を微妙に変えてコミュニケーションを行う事で、視覚も無い訳ですから互いに衝突したり、障害物にぶつからないようにしている訳です」
「そうですよね、その辺は理解します。実際洞穴内での速度はせいぜい60キロから70キロ。一方MRは設定すれば、センサーによって壁や障害物を回避するし、飛行ルートは出来上がっても居るから、その辺については、衝突の危険性も無い。だが、今回のように無慮の大群が襲って来たら、MRの防御膜はそのように設定はされていないから脆弱と言えます」
「はい、その辺の改良余地はあるとは思いますが、では、この分析によって導かんとするものはどこにあるのでしょう?」
ケンシンが核心を聞いて来た。
「今回隊長は、調査続行を申し出られました。しかし、それこそ防御を強化出来るもので無くては、意味も成さないかと」
「え・・?」
マコトが眼をかっと開いた。
「だって・・そうでしょう?無人機でこの深部に探索を決行するからには、何等かの対処が必要ですから」
「それは・・既にGOサインが出たと言う事でしょうか?」
「はは、やるにしろ、止めるにしろ、現在蝙蝠群が出現した空洞には遮蔽版をしてあります。それは、怒涛の大群がもし再び攻めて来た時に対処出来るものでしょうか?我々はその想定すら満足に出来ていないんです」
「むう・・それは確かに、そうですね・・」
ケンシンも腕組みをした。そんな状況で、マコトの言葉は余りにも軽いと思えるのであるが、本来彼もその防御膜の事を真っ先に考えていたのだろう。
しばらく考えていたケンシンだが・・
「頑丈な素材なら、一杯あります。つまり、これは完全防御機能を持つMR形式の物が必要なのですよね?」
「あ・・ああ、そうなりますが・・?」
どうやらケンシンは、シンが思うところを理解したようだ。高速でやりとりされる所謂天才達の脳裏内で導かれるものを、優秀ではあるが通常の者では理解の範囲が超えている。そう、もうここまでの経緯の中で、シン、ダン、ケンシン、或いは異能のラン、リンは天才部類の人間なのだ。コウタもそう言う範疇に入るのだろうが、恐らくこの5人とは違う部類の所謂理系のIQが高い者達だ。
マコトには、やはりこの会話内容は、さっぱり理解できなかった。だが、彼はそれで良い。




