第15章 恐るべき計画
ケンシンの言葉は、じいんと響いた。シンは首班である前に人間だ。だから、全ての者に好まれる事など有り得ないし、かと言って今各幹部が居て、誰がその人心を掌握していると言えるのか、一般組織の者達と特権階級では無いが、彼らには重責がある。だから人心と乖離した所でコミュニケーション不足だったと、ケンシンが強い言葉では無いが、ここでこう言ったのである。何故、こんな重大な発表をする前にシンがそんな言葉を出したのかの意図を汲み取り、ケンシンは自分も含めてそう言う部分を自戒したのであった。
*それはダンの胸にも突き刺さった。自分は副首班の立場でありながら、ずっとA国に張り付き、それは勿論重要な事なのであるが、シンにここまで言わせてしまった言葉の裏に、余りにもその補佐的役割が不足していたと感じていたし、コウタもそうだ。補佐とは本来そう言う事も含めて、何故日本に居る自分が動かなかったのかと。名前だけの補佐なら、結局以前と同じである。シンがこれ程今も多方面に気を配り、誰もが真似が出来ない位精力的に動いているのにと言う事だ。
*そうは言っても彼等も人間だ。己ずと限界もある。こんな問答は何度も繰り返されるようになる。彼等も、その都度シンに過度の負担を強い、辛い役目を負わせている事に気づくのだった。
ダンは、この時この会議後日本に拠点を移そうと決意した。現地にはケンも、たのもしい犬軍団も居るし、ランもいる。そして十分にもう自分の片腕に育っている後釜には、シンの左右の両腕に育つだろうアマンと共に優秀なエイジが居る。これからだって、シンがやっているようにリモート会議で行える。そしてA国は、もともと和良司令官が研究者として大学に居た地でもある。その辺の情報習得者として、日本に次々と自分の研究材料を持ち込んで来た事も、あの、第二次世界大戦の痕跡があった鉱山の中でのカードや、組織から延長して来たケーブルによっても、色んな証左も見つかった。そして、A国の動きや狙いを一番熟知していたのが、やはり和良司令官なのである。
かなり情報は繋がって来ていたのである。
「じゃあ・・有難い言葉も頂いた。だが、やっぱり前回あの大事な場面で中断せざるを得なかった現地調査と、つまらない奴らだと皆も思っただろうが、あの時腹も立てただろうし、反目している訳じゃないんだが、面白おかしく情報も錯綜して振り回された事もあって、この地を選んだが、もう一つ気づくと思う。ここは、M国地下とほぼ同じような立地条件にあり、そして、M国の特進路と言うんだろうな、繋がっている唯一のルートだと言う事だ。更に、幾つもの枝道もある。俺達は、主要道以外は殆ど無視して探索もして来なかった。だが、そこに何かある訳じゃ実際無いんだよな、迷彩を施しているんだろうと思う。それは何故かは分らない・・」
「そこ・・色んな話の中に、今日は情報を混ぜて来るが、意図があっての事かい?」
キョウが聞く。シンがいつも嫌う回りくどい喋り方が気になるのだ。具体的にT新人類が自分達と違う組成の細胞を持つ事までは分っているのに、その先を言わないからだ。
「ん?俺は、自分の調べた事をもう言ったぞ?室長、本来ならお前が、T新人類の細胞が我々と違うと言った時、何でそこに突っ込んで質問をして来なかった?俺が求めているのは、ここは報告会じゃない、議論の場だと言う事だ。逆に聞きたいよ、俺が何故そんな話まで持ち出しているかも含めて、この会議の有り方だよ」
「はは・・俺もそう感じていたぜ、お前らそれでもトップ5の会議かよ。全部待ちなんじゃねえか、この会議で俺は、確かに部外者だんだろうが、そこも情報が漏洩したら困るって言うんなら、俺は俺の調べた事を述べた。それが主題じゃ無いって事も分るだろう?俺にはそう感じたが、どうだ?」




