第14章 大きく動く
「この単細胞なんですが、変異するパターンは無限であると言って過言では無いです。今申し上げられる現状です。和良司令官はこの単細胞を恐らく生体プリンタで合成し、それから色んな生体を創出させたのでしょう。現有の化学分野の者でここまで展開出来る者は皆無ですが、やはりその分野の天才だからこそ、死んだ人間をそっくりそのままコピー・培養し、シリマツ官吏に仕上げたんですよ、黒川主査」
「そんな事が・・可能だったのか・・単細胞一つを入手しただけで・・」
再び、黒川主査が固まった。
「もともと生体学の学者でもありますからね、自分が恐らくそのプロジェクトから外されて、M国でやっている研究内容を入手したかったのでは無いでしょうか。しかし、それが適っていたら、最後の最後で完全体が崩壊する事は無かったのでは?それに、シリマツ官吏の腕に爆弾が仕掛けられていたのにも、こちらの偶然とは言え、レントゲンの撮影があったからですが、あそこまで俺達も仕掛けが何かあるぞと警戒をしていた訳です。しかし、あの腕を吹っ飛ばす乱暴な射撃をしても、血が異常に少なかったし、あの腕は再生しているように見えました。勿論現在ではIPS細胞で形成手術も行い、両腕は復活しています。ただ、とは言え相当の痛みを与えた事には変わりはありませんが。た。その辺再生についてもかなりの疑問はあった事は確かです」
「そうか・・その辺からずっと引きずっていたか、いやはや・・君をそこまでの怪物に仕上げて来たのは、やはりそう言う複眼と言うか、同時多発的思考なんだね」
黒川主査が言うが、シンは首を振った。
「いえ・・多分俺が臆病なんだと思います。そして、そうしなければならない圧迫感があるんだと思います。信じていると言いながら、こんな仕掛けで、結局は黒川主査を試すような結果になってしまいました。深くお詫び申し上げます」
シンは深く頭を下げた。黒川主査は、
「頭をどうか上げてくれたまえ、君のその思考こそが、我々の希望なのだと思う。そして、真実はやはり一つしか無いのだから、その疑問は持っておくべきだ。それが無かったら、君は恐らく今回のM国探索で、何度もアタックしながら引く事もしなかっただろう。勇猛果敢なチャレンジャーは第14班には一杯居るが、君とダン副首班は、全てにおいて慎重だ。それは臆病なんかじゃ無い。全てにおいてやはりトップに立つべき者達なんだよ」
肩をぽんぽんと叩き、シンを労った後、黒川主査は戻って行った。シンも本部に戻るのだった。
ランが待ちかねたように、
「やっぱりマーキングだったな。一応MRで他にマーキングポイントがつけられている者が居ないか、部長にこそっと30機の設置を頼んだ。俺は、もう少しこっちでやらせてくれ。その方がきっと結果を導き出せるような気がする」
「おう・・頼むよ。今日は寝る・・はは」




