決別 12名の戦士達
数名はここを基地として、山切りの木から周囲を見回した。既にオオコウモリは消えていた。周囲に転がるオオコウモリの死体を集めて、解体作業を行う。時間を置けば腐ってしまうからだ。何故解体するのか?勿論食する為にである。ドームに戻らないと決めた以上、野外の動植物は全て食物の対象だ。これは生きるための必然であって、何ら不思議な事では無い。彼らに抵抗は全く無かった。これが野外班のメンバーなのである。死体は250体あった。体の割に食べられそうな部位は意外と少なかった。その肉を大葉で包み、食糧として保存食とするため、そのまま蒸し焼きにした後、塩の代用になる唐辛子や、山椒などがあり、それらを使い燻製を作った。これで当分の食糧を確保出来る。またふんだんにある食用になる木の実や、野菜等はその周辺で手に入ったのだった。これもシンツールが正確なので、生きている。
網などは、ケンが中心になり、修復を行った。
同時期、シンと同じ密命メンバーである山井が、やはりその上層部から呼ばれていた。
「監視塔からの報告だと、仕掛けた鹿網のセットは、ほぼ完了したようだが、夥しい数のオオコウモリが襲って来たようだな」
「はい・・」
山井は少し沈痛な表情で答えた。その上層部の者は淡々と言う。
「全員・・アウトかも知れないな」
「私に行かせて頂けませんか?特に聖進君は、危機を何度も乗り越えて来た者です。ひょっとしたら」
「駄目だ・・山井君。彼らを救う手立ては無い」
「しかし・・」
「計画は白紙だ。選抜メンバー12名は恐らく駄目だろうし、今一度計画を練り直すしかあるまい」
「・・・・・」
山井は口を真一文字に結び、無言で一礼をすると、話はもう終わったと解釈し、部屋を出ようとした。
「山井君・・おかしな事は考えない方が良いよ」
「はい・・」
冷たく聞こえるその上司の言葉に、短期間であったがシンと行動をし、彼に非常に親近感を持ち、一緒にやっていける仲間だと思っていた。
彼は、その夜、野外に単身飛び出したのであった。覚悟はもう決めていた。組織で罰せられるのならそれでも良いと思った。抑揚の無い声で、生死を賭けて懸命に職務に忠実に働いて来た彼らの命を、何と軽く見ているのだろうか・・無性の怒りが込み上げたからだ。
一方、そのかろうじて生き延びたシン達は、この空間に何か秘密があると探していた。灯りが射しこむ窓のようなものもあるし、樹上から降りて来ると言うより、樹上の穴に向かい梯子を使い登ると言う構造の方が、何か自然だなと思っていたからだ。
もう彼らには、互いに自分の事を何も隠す必要は無くなった。こんなに危険な眼に合わせる組織等はもはや不要だと思ったし、決別の覚悟を持っている。彼らは自由を与えられたのだと思う事にした。自分達で考え、自分達で行動をし、ドーム内での生活こそ殆ど無味なものだったと感じるようになっていたからだ。何かがおかしい、根本的に違うのだ。それは、野生に戻る人間の本能のようなものであった。