組織
ショウが言うと、それには、全員がうんと言った。完全に負けだ。このままでは、オオコウモリは人間が突如消えた事で、探しているだろうか。また網の中がどうなったのかは又確かめに行くつもりだが、全員が九死に一生を得た事で、ここはまず落ち着こうと息を整えた。喉も乾いているが、幸いにも水筒と、簡単な食料は背中のリュックに入れていた。
「とにかく、ここで一端息を整えよう。ライケンで、数百のオオコウモリをとにかく我々は倒した。それだけは、やられっぱなしじゃ無かったから、我々の今の誇りになる。この100年間、絶対的君臨をしている食物連鎖のキングであるオオコウモリを誰も倒した者なんて居なかっただろうしな」
エライ班長の言葉に少し救われた気になった。完全に負けた訳では無いし、山切りの木にはオオコウモリは近寄ら無かった。それは、ここまでの状況として殆ど変わらなかったのだ。鹿の捕獲網も彼らを結果的に救ったし、それをオオコウモリが食い破ると言う手段も分かった。その気になれば、途方も無い大群を率い、襲って来ると言う手段に出る事も分かった。また、ここで完全に人間を敵と見なした事も確認した。いずれにしても、ドーム外には、こう言うとんでも無い敵が存在するのだ。
胴回りが18メートル程あるこの人工山切りの木の根元周囲は、非常に安心出来たし、オオコウモリの発する甲高い鳴き声も、落ち着いて耳を澄ませば幾分減った気もする。夥しい死体も転がっているだろう。ただ、不思議と着ている衣装には、全く血糊はついていなかった。不思議そうな顔でシンが全員の服を見て居ると、シリマツ官吏が気づいて言った。
「シン君、この服はね、撥水加工をしてあるんだよ」
「撥水加工?聞いた事の無い言葉ですが、つまり水を弾くと言う事ですか?」
「そう、表面にコーティングされている。だから、オオコウモリの血糊が飛び散ったが、我々の服は汚れていないのだよ。そして、ドーム内で雨が降る事は無いが、野外行動をする我々には、雨の水滴が体力を奪う。濡れて体が冷えてはいけないから、開発されたものらしい。と言っても、大葉の繊維らしいがね。つまり、オオコウモリに実際噛まれた者が居るかね?」
そう言われると、オオコウモリは確かに口を開けて襲って来ようとはしたが、威嚇されるだけで、至近距離から噛まれた者は居なかった。
「安全策はとっているんだよ、一応だけどね、だが、それでもオオコウモリは非常に知能が高い、網も破るし、或いは自分達の体臭で周辺を充満させれば、嫌悪する匂いも殆ど打ち消されてしまうだろうし、この服の防御機能も無効になると言う事だ」
シン達は頷いた。だからこそ、物量作戦で襲って来た・・と。ただ、入り口が狭かった為に一挙に襲いかかれなかった。その為に、臭いを打ち消せ無かったのだ。こうして見ると、オオコウモリの今回攻撃が生半可な数では無かったから、いずれにしても時間が経てば、体力も消耗してしまうだろう、やはりシン達はやられていたと言う事になる。
そこで、15分程座ったままで体力の回復を待つと、エライ班長がここで、
「旧時代の、つまり、遺跡と言う跡にドームを創る際に、こう言うイミテーションを施した。そして、我々の知らされていない別ミッションが隠されているのなら、こちらも一端全滅した事になろうじゃないか」
「ええっつ!」
思いもしないエライ班長の言葉に全員が驚いた。