組織
それは、分かって来た。牛に続く食糧としての可能性は非常に高い。ほぼ毎年一頭の子を生む。例えば、500頭のペアが居れば、500頭の子が生まれる。肉だけを1頭から食肉として利用するなら「実際は全て牛も使用するので、牛が100キロあれば、体重を100キロと換算」鹿の体重を平均60キロとして、30トンの食糧となるのだ。主に、ドームでは生肉は食べない。骨も内臓も全てミンチにし、ソーセージやハムとして保存し、食されるのだ。5万人の胃袋を満たすには十分だと言う事であるし、保存も利く。牛がもう何世代も交配され、近親交配になって来ていると言う事も事情にあるのだそうだ。やはりそうなると、喫急の問題だと言う事も頷ける。一つの疑問から突き詰めれば、色んな事が見えて来る。要するに確かに知能の高い、優秀な人材は必要だ。だが、この現代においては、もう少し近い過去に持っていた体力や、免疫力を持つ行動的な者が要求されるのだ。だからシン達は、悪い意味で実験台にされ、野生的な生きる力を持った者だと証明され、12名のチームに編成されたと見たらどうだろうか?やはりそう言う視点で見ても、合致する部分はあるのである。彼らが特別待遇を衣食住で受けていた現実から見れば、確かに生死を賭ける実動にはきつい部分であっても、他では全て最高級の待遇を受けていた事になりはしないだろうか?或る意味において彼らはエリートなのだ。
この日は、ショウが作った爆竹のようなもので、作業を中断されぬように定期的に鳴らし、動物に襲われないようにした。又、蚊、虻、蛇、ダニ、毒を持った虫達避けに、大葉の乾燥品を粉末にし、練ったものを焼いた。それらは、思わぬ効果をもたらしたのである。有効と言う結果がすぐ出たのだ。こうなると、身近なもので、必要な野外での生活が近くなるだろうが、それでもやはりオオコウモリを舐めたら駄目だった。
「右前方、空が黒く染まる程のオオコウモリの大群が飛来中!」
監視小屋に残った、サテン、ウテン、ランから大声で警戒が入った。
「逃げろっ!網の中に逃げ込めば大丈夫だっ!」
「うわあっ!ものすごい大群だっ!」
エライ班長が即号令を賭ける。それはその辺に地響きを誘発するような大群であった。空が真っ黒になった。ひゅん、ひゅん、ひゅるるるるうーーー、ばさっ・・ばさささ・・シューーーーン・・囀っていた鳥の鳴き声が消えた。怒涛の大群である。それは、爆弾破裂で追い払った事で完全に人間達が敵であるとオオコウモリに認識されたのだろう。自分達の食を脅かすもの、それは生体武器であろうが無かろうが、敵なのだ。しかも、もとい生体武器であるからこそ、非常に統制された何群にも分かれた派状攻撃を仕掛けて来る。
ババ・・ババン!爆竹の音がする。しかし、オオコウモリには怯む様子は全く無かった。数で攻撃すれば、少々の犠牲を払おうが、彼らは圧倒的に人間を凌駕しているのだ。その一群が遠ざかっても、又次の一群が来る。かろうじて網の中に逃げ込んでは居るが、1頭、2頭を倒しても、オオコウモリはその攻撃の手を緩める事は全く無かった。
「持久戦に持ち込まれれば、我々は負けだ・・どうしようも無い」
エライ班長が、流石にその言葉を発した。こちらも、毒の吹き矢や、嫌悪臭気を発する薬玉を持っては居るが、それは手持ちのものが全てだ。