組織
「聞いた時には、俺も耳を疑った。しかしな、野外生活をもし余儀なくされるならば、俺達こそ先駆者、エキスパートになれる。そう言う意味で、他の奴らなんて知るかよ。俺達は生きる術を学んでいる、そう思う事にしないか?」
「賛成っす、マコト副長の考えに同感っす」
これには、シンも賛同をするのだった。確かに自分達を使い捨ての駒のように利用しようって言うのなら、結果としてこの実動班に頼らざるを得ない現状だ。無菌室で育ったドーム内の頭でっかちのもやし達には、野外生活だって無理だろう。監視小屋が高い位置にあるのだって、蚊等の侵入を防ぐ目的もあるのだ。そして、100年の日本は亜熱帯気候となっており、つまり地球温暖化だ。排出した二酸化炭素が地球温暖化を招いた。しかし、100年経って、随分気温も下がって来た。二酸化炭素が排出されなくなったからだ、工場が無くなり・・。故に、マラリアとかの毒蚊とか、毒蜘蛛などは死滅しているだろうと言われているし、事実それらの虫は居なかった。毒蛇も、マムシ以外にはヤマカガシだけだ。もっと南に行けばハブが居るだろうが、今の気温では恐らく住めないだろう。ただし、毒蛇が生体武器として開発・改良されていたら別だが、ナンセンスだと思った。そんな手を選ぶとは考えられていなかった。もっと手っ取り早く、それなら、蜂とか、毒アリとか選択するだろうと思う。
彼らはいち早く、この100年後の世界で野外活動を開始したメンバーなのだ。それも何度も危機を乗り越え、このチームに再結成された。彼ら以上に、実践を経験している者など居ない以上、確かにエキスパートになれば、誰も自分達の存在を軽視は出来なくなる。チーム全員の士気に繋がったのだった。
それに近い事を、監視小屋から一晩明けて翌朝に、シリマツ官吏は言った。
「諸君の中に体調不良の方は居るかね?」
誰も居なかった。もっと過酷な野外活動で、何者か分からない敵に襲われる事に怯え、何昼夜も過ごした者が居る。しかし、彼らはドームに戻って来たのだ。それだけ取っても彼らが優秀な者で、判断力も体力もあると証明されたようなものだ。そして彼らは、例外無く高い木に登り、夜を過ごしている。
「免疫力強化のサプリの影響もあるだろうが、蚊避けのハーブもある。その効能もあったと感じるが、網設置が諸君をかなり安心させた事であろうと推察する。以前は半数の者が、精神的にやられたと言う結果が出ている。実験台にされたような気分で、諸君の前だからこそ言うが、面白く無い結果だよ。だから、今回は相当上とやりあったと言う事は、諸君らに愚痴として零してしまった。私だって諸君と同じ人間だからね、怒りもするし、悩みもする。恐怖心について何度も諸君達に言っているように、それが無いと言うのが、そもそもの欠陥なんだよ。それがあってこそ初めて野外活動が生きて来るのだ」
相変わらず、説得力もあるし、頷ける話だ。
「で・・本日は、監視小屋より鹿の生息地域が尤も密である網の設置を、とにかく完成させよう。動物と言うのは、捕食場所が大体決まっていて、植物を食べる鹿は、特にこの密林と言って良いのか、豊富な草・・大葉が生えているこの場所に多い。尤も逆にオオコウモリの攻撃も受けやすいと言う事だ。オオコウモリが鹿を主食でも無いだろうが、多く襲うと言う事が分かって来た今、生体数の多さとその食肉としての可能性を秘めているからだろうと思う」