組織
「それだよっ!猪避けに、何でカーバイドを準備しなかった。オオコウモリだけじゃないぞ、それは、網が設置完了したら、鹿の群れを正確に追い込む事も出来るし、空、陸の敵も防げるじゃんかよ」
「あ・・そうか。このカーバイドは、第4監視塔以外の今造営建造中の7か所の監視塔塔付近に定期的に仕掛けているんだ。お陰で一度もオオコウモリの襲撃が無かったと言う」
「だよな?オオコウモリの生息数も大体分かっているし、鹿もある程度の群れを囲み込めば、それ以上頭数確保の必要も無いだろうし、音だけで良いんだよ、この間に。明日にでも進言して見る」
「あ・・おう・・シンが冷静なんで、頼もしいわ」
2人とシンは握手を交わした。これが死地を共にする同胞と言う奴だ。
シリマツは、すぐその案を採用した。
「何で・・そんな事を忘れていたんだろう。迂闊だったね」
カーバイドは、随分な量があるし、製造も容易だ。ランとリンがすぐドーム内に取りに行った。火薬破裂の効果があって、この日は全く何の攻撃も受けず、網設置は捗った。これでおおまかな鹿の追い込む網は、山切りの木を中心とする200M四方に及んだのであった。後は追い込めば、鹿が逃れられないように、途中で仕切りが自動で落ちると言う仕掛けも作り、とうとう、5日掛けてこの網が完成したのであった。だが、これこそ、たった5日を掛けてこんな仕掛けが構築出来たのである。
「ここに逃げ込めば、取り敢えず、オオコウモリも猪も、野犬も居ると言う事ですが、襲って来ないですよね」
言ったのは、カイだった。彼は早く植物の方の調査をやりたいようだ。作業中の合間にも網の中の植物をせっせと採取していた。これも容認されていた。作業さえ出来ていれば誰も文句を言う者も居ない。文句を言いたいのであれば、この現場に来て言いやがれと誰もが思った。こんな危険な作業を彼らはミッションの名の元に、何が敵なのか、調査目的なのかと自問自答しながらやっているのだ。冗談では無かった。
「危ないと思えば、迷わず、網の中に逃げろ、網には登れるように何か所かロープも吊るしてある。鹿や猪は、ロープを使わんからな」
「ははは・・」
エライ班長の自虐気味の言葉に、全員が笑った。ようやく緊張が解けた瞬間だった。野犬の数は、確かに多いものの、やはり猪やオオコウモリなどに子犬を捕食され、その2種に比べると少ないようだ。圧倒的に多いのはウサギ、ネズミ等は別格だろうが、鹿等である。
他にも居るのだろうが、そう目立って見えなかった。それは、この地より他の動物にとって住みよい環境があるからだろう。多産する動物は食物連鎖が機能する前に、どっと子孫を増やし、爆発的に増えた事だろう。その後食性ピラミッドが徐々に出来上がり、食物と相間関係の中で、バランスが取れて行く。ただしそれでもたった100年なのである。動物達の種が誕生し、現在まで、恐ろしい時間の中での100年しか経っていないのだ。まだまだ食性ピラミッドは完成しては居ないのである。