第10章 波乱
「このNSS細胞は、どうやって思いの細胞に変異させるのか、それが命題でした。自分の細胞を取り出し、その細胞を培養するIPS細胞とは違い、誰の体であろうとも適合しそして、最大の特徴がIPS細胞とは全く違う事は、このNSS細胞がどんな変種をも生み出す可能性があると言う事です。つまり、人が象に、象が犬に・・変幻自在です。その遺伝子情報、ゲノムを与えれば再生すると言う事です」
「あ!そこで質問を割り込ませて頂けないか」
コウタが手を挙げた。シンが、
「待て、補佐。何時も言っているが、発表の途中だ。質問は後にしろ」
「は・・はい」
コウタは手を降ろした。ここは絶大な議長としてシンは場を仕切ったのだ。恐らく聞きたい事の大まかについては、理解出来そうな気がした。
「続けます。ですが、このデータを処理する膨大な記憶量と正確に保管するものが御座いませんでした。AIが破壊されたからです。宇宙基地、地球上を今くまなく探している勿論残存人間が居ないか、どこかの国家が残っていないかの探索が大きな柱なのでしょうが、このデータベースはとても重要です。人増員計画でも、恐らく今ご質問されようとした中で、関連したかも知れませんが、人間の手ではこの微細な作業は行えません。また高度な器具は使用出来ません。我々が過去に失ってしまった医療技術や、工学技術・・所謂職人が生み出すような繊細な作業、芸術を生み出す発想・・それがもう頼らざるを得なくなった現代においては、皮肉にも我々が一端嫌悪したAI社会そのものが、自ら退化・破滅の途をひたすら歩み続けて来た人類の愚かな行為そのものに、帰結するのです。ですが、そこから何かをしなければならないと言うスタンスこそが、この研究命題であった事はお忘れなく」
「あ・・」「う・・」
質問しようとしたコウタも、口が閉ざされた。
アマンは、そのスタンス、原点をここで言うのであった。そう言う事で、ではこれはどうなるのとか、こうする事が出来るのでは無いかと言う発想そのものが何の為の研究であったかを、その言葉に強くこめたのだ。コウタは黙るしか無かった。学者故に思う事は無数にあるのだろう。可能性を追求する事は悪い事では無い。優秀な者としてのそれは性であり、自分の求められるものでもあるが、黒川主査は大きく黙って頷くのだった。だからこそ、この鉄壁の心の心棒を持つアマンが抜擢されたのであろう。それがもう分かったのだ。




