第10章 波乱
翌日になり、2日目の会議になった。発表はリンからである。リンはやはりI国深海底から数本の人工的なトンネルと、鍾乳洞数本を無人探索機で発見しており、ぎりぎり侵入出来る小型MRまで開発して貰い、ついに地底のかなり大きな水脈を見つけた。その1本には、恐らくマコトが発見した地底湖に伸びているだろう事も判明したのである。これはM国からガンジス河と言われた大河に、地下水脈がもともとあったのか、氷河等が急速に溶けだし、それが新たな地下水脈が出現したのかは明らかでは無いものの、人工的な水路があると言う点に、注目すべきものがあった。
「・・と言う訳で、ここに人工的と思われる地下水路だが、何かの目的で抜かれていると言う事であるものの、俺には判断も出来ない。ただ、やはり旧日本国とM国の目的上であるならば、ここはもう少し調査が必要と考える。更に、隊長が発見した地底湖に向けて一本の水路はこのMAPを見ても、そこから下流に当たると推測できる。以上の報告だが、ここで、もう一つ、提案をしたいと思う。質問は後から受ける」
リンらしい、はきはきとしたもの言いで、報告はシンが途中で素晴らしいと、ここでも絶賛している。シンは、全員良くやった、やっていると昨夜ダンにも話をしていたのだ。全員の前でそう言う言葉を発するのは、やはりやる気を起こさせるのだ。叱責する場合でも、その過ちがどこにあるのもはっきりさせる。これは徹底しようとしているのだ。
「この場を借りて、提案した事を急遽昨夜まとめた。急遽と言う事で、提案には重要な部分が抜けていたり、不備な点があるかも知れないが、お許し願いたい。質問・ご指摘は後程受けたい。議長・・よろしいですか?」
議長とは勿論シンの事だ。
「勿論、歓迎する。むしろ、積極的な提案なら喜んで受けよう」
「では・・許可も頂いたので、昨夜作った。パネルを見て欲しい」
リンが優秀な農業分野、土質、肥料に特に詳しい博士号を持つ事を知る者は少ない。リンと言えば、常人外れた遠視力と、動体視力、飛び抜け運動神経を持つ異色の人材だ。何を言うのか、全員が少し注目した。そして、この日のトップバッターだ。昨夜少しリラックスも出来た筈で、集中力も高い午前中だし・・。
「さて、提案したいのは、大葉の繁殖で、これまで旧ドーム内で処理して来た牛と、新たに加わった鹿の飼育によって、それまで体内に棲んでいた消化を助ける腸内菌等と、土壌にもともと棲んでいた土壌菌などが爆発的に増えている事が分かった。これらのサンプルの表にも出ているが、数千倍、数万倍の今や数の菌が増えている。今後は更に爆発的に増えて行くだろう。象の排出物もそうだが、一部肥料に転用出来ると採用し、またこれらの菌が山切りの木の葉、次々と落ちる大葉の葉、枯れた茎、枝を腐敗させ菌の活性化より、嫌菌性より好菌性に変化する事によって、土壌の富栄養価が確保出来る。今もT国森林部に積極的に大葉を移植し、擬ガジュマル木のヤドリギに成り、その含まれる非常に高栄養素のある果実にとっても、その土壌菌を更に活性化させ、さらにその循環によって、無味乾燥な砂漠地帯の緑化に役立つものと思われる。草木の種別も少なく、古代のような地球上における緑豊かな大地を取り戻す事は難しいものの、地下水は表土の下に流れている。それらを表土に戻せば、やがてそれらの富栄養分を含む水は海に流れ、どうにか深海生物が存在する事が判明した現在、瀬戸内海湖の魚介類も、近将来に解き放てる海に変化するのでは無いか?また、地下水には多くの微生物が居る事も分かった。これらの微生物こそは、失われた地球表土の転換を促す。その為には、どんどん大葉の移植と、この菌類を使った肥料を移植地に撒くミッションを提案したい」
「おうっ!それは、素晴らしい!第一人者のリン班長が言うんだから、間違いも無いだろう。そうか・・そう言う壮大なスケールで考えているんだな」




