基地
シリマツは少し顎を擦った。だとすれば、リンの活動は咎められない事になる。無論、不問だと言う上の裁定が下っている以上、シリマツに彼を排斥出来る人事権も無い訳だが、やはり責務上、幾ら自由にやれと言った手前であっても、単独行動はやはり困るし、自分が把握出来ていない事には管理責任もある。その点で言えば、シリマツは確かに人物的にも能力的にも十分に上に立てる者なのだが、いかんせん、現組織は自分達の上の幹部達の中で動き始めた急造のものだ。推し量る事は出来ないが、エライ首班に相談するのであった。エライ首班は、殆どシリマツに細かい指示はしなかった。
「そうか・・短時間での野外活動は全員やっていたと言う事か、確かにあの粗末なBOXと採取器では、手の届く範囲の限られたサンプルしか集める事は出来ないだろう。又採取器の中に誘導するのも一苦労。しかし、監視塔を今以上延長する事は必要も無いと言う決定だ。野外行動を再び決定したからには、4番監視塔を出入り口として、他の塔からの出口を封鎖しよう。それに、我々も野外活動を行っている事を、メンバーには知らせておくか・・疑心暗鬼がそこで生じては、今は駄目だからね」
「は!では、ミーティングをしましょう。また、リン君も単独行動をしましたが、結果的に有益な情報を提供してくれた訳ですし、シン君が救出行動に向かえたタイミングも理解出来ましたし」
「うん・・とにかくシン君に関しては、実は私も上の方から、自由にさせてやれと言う指令が来た。何かの密命を受けている可能性がある。余り彼の行動について、我々は細かくチェックをしない事にしよう。とにかく我々の使命は、実動班を指揮し、このドーム周辺の調査を先行させる事にあるのだからね」
「はい・・」
シリマツが少し複雑な顔をしたが、シンがここへ来てやはり、何か別格の存在である気がした。そして、それはこのTOP達の権限を遥かに超えているようだった。それからはエライ首班達もシンには殆ど細かい指示は出さないようになる。シンもそれは感じたのであった。
「それでは、リン君の怪我も大きなものでは無かったし、今回は厳重注意と言う事で、復帰して貰う事になった。実動班のメンバーは監視塔を中心として生物班・化学班・分析班の者達の活動の安全管理と、交代制による24時間管理シフトによってかなり疲労もたまっている事だろう。尤も我々も24時間を半分の12時間交代でこの2ヶ月休みも無しだ。ほととほと上の者の人遣いの悪さにも、文句を言いたい位だよ」
はははと笑い声が出た。こう言う雰囲気と言うか常に、洗練された会議の有り方をこの二人のTOPは常にやって来た。だから、信頼も勝ち取っているし、実際その通りだから、シン達が4日間で1日休息を与えられるのと比べれば、彼らの方がこの2ヶ月はずっと働いている事になる。