基地
「・・と言う事だ。しかし、今回の発見と言うか一部オオコウモリの生態だが、忌々しき事だね。何故なら、我々だって、軽々と捕食対象になってしまうと言う事だ。連れ去られる事を、リン君は身を持って体現されたのだから、皮肉な検証ではあったがね」
自虐的とも捉えられる場を和ませる為に言ったのだろうが、シンは顔をしかめた。それは、自分達にとっても、何か野外で動いている事に支障をきたすのでは無いかと言う事だ。その点で、この場でシンに質問が来た。
「シン君、前にも聞いたが、大葉がオオコウモリにとってのもう一つの忌避剤となる点だが、今回君が立証されたも同然だよね」
「あ・・はい。でも忌避剤と言うか自分の身を隠す手段として使いました」
「うん・そうだよね。でも、十分にその効果があるらしいと言う事は分かって来た。なので、野外活動を再開したいと思う」
うお・・急に来た・・メンバーは思った。ただし、やはり実動班だけだと言う事だ。
シンは、山井に何か小声で伝言をする。それは、他の者にも同じような伝言をしているので、違和感などは全く無かった。少し前にその所作を気付いたシリマツは、流石にリーダーだ。生物班の黒川伊織と言う少し変人だが、学者らしい理論家であり、神経質そうな男に聞いた事があった。
「どんな会話をいつもしているんだ?クロカワ君。これは、実動班と君達が一緒になってコミュニケーションが出来ているのか、聞く為でもあるから、差し支えない範囲で構わないからね」
言葉は、何もこちらも違和感は無い、職務上聞いている事だし、このドーム外の管理塔での業務ではドーム組織の監視は利かないし、先日のように勝手に野外活動をされても困るからだ。まして、怪我を負った。一歩でも間違えれば、やはりオオコウモリは危険だと言う意識を十分に植えさせたからだ。
「はい、たわいも無い話ですよ、いつも。どう?順調かいとか、何か変化があったとか、体調はどうだ、何しろ我々にとっては生きたサンプルを生まれた初めての野外で観察する訳ですから、考案されて届く範囲で、採取出来る伸縮可能な[採取器]で、少しずつこれも実動班に設置して貰ったBOXに誘導し、引き入れる毎日です。その為、誘導位置が悪ければ、短時間ですが、実動班に野外に出て頂き、その位置を直す事はやりました」
「そう・・短時間での野外活動ね・・それは、どの班もそうなのかな」