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マイト、生贄の真実を知る1



 村長の話は俺達が悪魔と思っていた羊角族、つまりメナスさん達についてから始まった。


 メナスさん達…というのは実は先ほどメナスさんと会った洞窟を抜けた先にはメナスさんのように角や尻尾を生やした人達の村があるらしい。


 ああ見えて数百年生きているメナスさんと人間たちとの間に生まれたハーフの子供たちが偏見や迫害を恐れて隠れるようにして住んでいるようだ。

 そのため人を遠ざける尾ひれのついた伝承がこの王国に伝えられて、真実は洞窟から近いカフス村の村長一族に代々引き継がれているそうだ。

 何もなければ今の村長もナンシーちゃんやその子供たちにのみ伝えるつもりだったのだが、ある時問題が起きた。


 それは数年前、村の一人の少女が女性として目覚め始めた12,3歳になった頃に起こったらしい。

 それまでも可愛らしいと評判で誰からも可愛がられていたその少女ではあったが、その時を境に年寄を除いた男達の彼女に対する態度が一変。

 彼女のどんな我儘でも叶えようとし、家族や恋人よりも彼女を優先するようになったそうだ。


 さすがにおかしいと思った年配の男や女性達が男たちをたしなめても聞く耳持たず、ならばと少女の方に理由を聞いてみてもわからないという答えが返ってくるのみ。

 どうしたものかと考えている内に少女の方に変化が起きる。


 積極的に男達に我儘を言い、叱ってくる年寄や女性達を男達を使って威圧し出したのだ。

 家族や恋人でも、少女の命令があれば喜んで暴力を振るう男達を前にして村長を始めとしたその他の人々は従う他なかったという。


 村がそんな状況であったということは赤子以外誰でも知っていたというのにどうして俺が気づかなかったのか? それにどうして俺だけ少女の言いなりにならなかったのか?

 村長曰く、それはその少女が俺の妹、クレアだからだという。

 家族だからかと聞いたが、俺以外の家族はやはり他の村人と同じで、母や義姉はまとも、父と兄はクレアの言いなりだったらしい。

 ではなぜ俺だけまともなのか?

 村長達は俺がまともなのはクレアが俺に恋愛感情を持っているからという結論に落ち着いたらしい。

 

 兄妹なのになにを馬鹿なと普通は言うところなのだが、俺の妹は真面目に兄である俺に恋愛感情を持っている。

 常日頃言っている、『お兄ちゃん大好き』という言葉は兄妹としてではなく男女としてのものなのだ。


 そんなの俺の勘違いだと断じたいところだが、俺の妹は成人手前のこの年になっても一緒に風呂に入りたがり、俺の後はひたすらついてきたがる。

 このあたりまでならぎりぎり兄妹の範疇に収めてもいいかもしれない。


 だがことは妹の誕生日に起こった。

 家族で妹を祝った後、俺が自分の部屋に戻るとベットに妹が裸で入っており、『誕生日プレゼントにお兄ちゃんを頂戴♡』と言い襲い掛かられた。

 当然喜んで俺をプレゼントした……なんてことはなく、馬鹿なことをいうなと布団で簀巻きにして妹の部屋に放り込んだ。


 俺は妹に対して家族愛以上のものは持ち合わせていないのだ。


 他にも妹の俺へのアプローチは数多くあり、中には表沙汰になったものもあるので、妹の想いは村全体の共通認識となっている。

 そんな妹の想いが俺だけ妹に魅了されない原因だと考えられたらしい。


 そして俺だけ妹の変貌を知らなかった理由。

 それは単純にクレアが俺に嫌われるのを嫌って、後ろ暗い部分は見せないようにしようと暗躍した結果だそうだ。

 男達は妹が言えば二つ返事で頷くし、他の村人も妹から脅され、俺の前では自然に振舞っていたらしい……全然気づかなかった。


 そんな妹が裏で(?)暴れまわっていた村だが、数年の間は年寄や女性達の我慢もあってうまく回っていたらしい。


 様変わりしたのは本当につい最近、ナンシーちゃんと俺の他愛ないやり取りよって引き起こされた。



---------------------------



「私、マイトお兄ちゃんのお嫁さんになりたい!」

 


 それは成人の年が近づいた俺の結婚相手は誰になるんだろう、そんな話の流れでナンシーちゃんがまるで告白するような真剣な面持ちで言った一言である。


 この時まではクレアも一つ下の妹分としてナンシーちゃんには心を許してた。

 そのため村の状況も俺同様に何も知らず、素直な想いを口にしたというわけだ。



「はははは。俺もナンシーちゃんなら大歓迎なんだけどね」



 クレア同様に妹といってもいい存在の彼女だが、ここ最近はぐっと大人っぽく成長し、特に胸は男に対する殺人兵器である。女性を意識しない方が難しい。


 言葉通り大歓迎なのだが、今はクレアも一緒にいる。

 彼女の視線が人を射殺さんとばかりにナンシーちゃんを見ているのだ。

 痴情のもつれで親友同士が……なんてことになるのは俺も嫌だ。



「こればっかりは親父や村長たちが決めることだから……」 



 俺はそんな感じの言葉で場を取り繕った。

 実際辺境の小さな村であるので、成人前後で村長と親同士が話し合って結婚相手を決めるケースがほとんどである。まったく的外れの意見ではない。


 だが当人同士の感情を最優先して相手を決めるのでここで了承することが全く無意味ということはなく、むしろ結婚していいよと言われるだろう。

 あくまで結婚しそうにない者同士をくっつけるための取り決めである。


 しかし仕方ないだろう。

 最近の妹は誕生日の時のように常軌を逸した行動を取るのだ。

 下手なことを言うと本当に血を見ることになりかねない。



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 そんな一幕があったのだが、当時の俺の考えはまさに正鵠を射ており現実のものとなったようだ。


 親友のまさかの一言に疑心暗鬼になった妹は、同年代の女性を俺から徹底的に遠ざけ始め、俺に好意を抱いている疑いがあったり、接触する機会の多い女性等に至っては男達を頼みに陰で暴力を振るったり虐めたりしていたらしい。


 そしてナンシーちゃんに至っては殴る蹴るなどの暴力だけでは飽き足らず、男達によって凌辱させようとした。

 集団凌辱だけはなんとか瀬戸際で食い止められたそうだが、服の下に隠れて見えない部位に刻まれた暴行の後を見て、村長は今回の作戦を実行することを決めたそうだ。



 ここまでの話を聞いた感想として飛び出だ言葉が、



「そんな話信じられるわけないでしょう!」



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